そのほか

人生100年時代の排泄問題 最終回|排泄問題をどう解決できるか

高橋 競
高橋 競
東京大学高齢社会総合研究機構 特任研究員

2020/05/14

これまで、高齢期に増えるさまざまな排泄問題のことについてお話ししました。最終回は、これらの問題をどう解決できるかということについて考えてみます。

私たち一人ひとりができること

真っ先にできることは、自分の排泄状態を把握することです。
皆さんは、1日に何回尿を出しますか?便のやわらかさはどうですか?それは、1年前と比べて変化していますか?自分の排泄パターンを把握し続けることで、年をとることによる尿や便の変化に気づくことができます。…といっても、自分の記憶は当てになりませんし、根気もいります。排泄を記録するための手帳やアプリなど、高齢者にも魅力的なツールがあると助けになりそうですね。(第1回でご紹介した「大人のためのおなかすっきりダイアリーを参考にしてください。)

そして、食事や運動などの生活習慣を見直すことも大切です。夜間頻尿を防ぐために寝る前は水を飲まない、便秘改善のために食物繊維や発酵食品を積極的に摂る、失禁を防ぐために骨盤底筋を鍛える――どれも大切なことです。

ただ、高齢期に起こる排泄問題の背景には、全身状態の衰えが隠れていることがよくあります。問題に直結した対策に加えて、身体や心の状態をトータルで良好に保つようにすることも必要です。それは決して特別なことではありません。バランスよくきちんと食べる、運動を継続する、しっかり睡眠をとる、他人とつながるなど、心身の健康に役立つ普通のことが大切なのです。災害時はとくに。

また、相談できる専門家を持つことも大切です。排泄の問題って、話しづらいですよね。でも、専門家に聞けば解決できることがたくさんあります。まずは、ちょっとだけ勇気を出して、かかりつけ医に排泄の状態を伝えてみてはいかがでしょうか?

社会がすべきこと

そして、高齢者の排泄問題を解決するために、社会がすべきこともたくさんあります。まずは、排泄をもう少しオープンに話せる雰囲気が必要です。何年か前に「アメトーーク!」というお笑い番組に、おなかピーピー芸人という人たちが出ていました。すぐにおなかをこわしてしまう敏感な腸を持った芸人さんが、自身の体質や失敗談を楽しくお話ししていました。この番組を見て、「自分と同じだ!」と救われた人がどれだけいるでしょうか。社会はもっと、排泄というテーマを明るく積極的に扱うべきです。

日本トイレ研究所がリリースしたラインスタンプ。排泄を明るく身近に感じさせてくれる。

次に、排泄問題を早期発見する仕組みも必要です。トイレが近くなること、時間がかかること、少し漏れること、どれも多くの高齢者が経験することです。しかし、このような徴候を問題視して病院を受診する人はごくわずかです。多くの変化は徐々に起こるので、本人は年相応と思って何の対処もしないのです。高齢者を対象とした健診に排泄に関する項目を入れ込むなどの一歩踏み込んだ工夫が必要です。

そして、排泄問題に役立つ情報や資源を「見える化」することも不可欠です。排泄問題をどうすれば学べるのか? 気軽に相談できる専門家がどこにいるのか? 同じ症状のある人がどうやって生活しているのか?――このような問いへの答えが、分かりやすくアクセスしやすい形で示されるべきです。これは、誰がやってもよいことです。行政や医療機関などのお堅い組織だけではなく、企業などによるやわらかい取り組みにも期待したいところです。

最後に、排泄問題を抱える高齢者に、社会が寛容になることも必要です。排泄問題を抱える高齢者は、これから確実に増えます。そして、若い皆さんも年をとれば、高い確率で排泄問題を抱えることになります。排泄問題を抱える人が大勢いることが皆に理解され、排泄問題を抱える人に優しい生活環境が整備され、排泄問題を抱える人がアクティブに高齢期を過ごせる。これからの日本が、そんな超高齢社会になると素敵ですね。

【これまでの連載】

人生100年時代の排泄問題 第1回|うまく出せない

人生100年時代の排泄問題 第2回|失禁が増える

人生100年時代の排泄問題 第3回|高齢者の排泄問題と災害

高橋 競
高橋 競
東京大学高齢社会総合研究機構 特任研究員

理学療法士やJICA専門家として国内外におけるリハビリテーション業務に従事した後、東京大学大学院医学系研究科において博士号(保健学)を取得。現在は、障害者や高齢者の排泄障害、フレイル予防、健康長寿のまちづくり等に関する研究に取り組んでいる。

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