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布マスクは効果があるのか? マスクの目的を考える

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

2020/04/13

今回は、新型コロナウイルス感染症予防としてのマスクについて書きます。トイレや排泄の話からそれてしまいますが、衛生に関する情報は重要なので、読んで頂けるとうれしいです。(イラストは、井上きみどりさんに作成いただきました。感謝です!)

マスクは感染症予防の重要アイテムの一つです。しかし、店頭から姿を消してかなり経ちます。いつになったら市場に行き渡るんだよー、とついつい思ってしまいます。
一方で、少しでも感染を予防するために、手作りマスクが登場するなど、様々な工夫がされています。ここで私が気になるのは「布マスク」と「不織布でできたサージカルマスク(以下、サージカルマスク)」は、どっちがいいの?です。もっというと、「布マスク」は効果があるの?です。

そこで、マスクの使い方について、北里大学 医療衛生学部 公衆衛生学研究室の伊与 亨氏に話を聞きましたので、以下、その内容をご紹介します。

そもそもマスクの目的は?

加藤 「布マスクの方が感染リスクが高い」「布マスクは推奨しない」というようなことが書かれている資料があります。そうすると、布マスクは効果がないの?と思ってしまうのですが、いかがでしょうか?

伊与 そのような資料を読む場合は、どのようなシーンで誰に対して言っているのかが重要だと思います。まずは、マスクの目的を整理することが大事です。

加藤 マスクの目的ですか?

伊与 マスクには大きく分けて二つの目的があります。「自分がうつらない」と「相手にうつさない」です。医療従事者が使用するサージカルマスクやN95マスクの本来の目的は、患者さんからの感染を防ぐことです。ですが、一般の人がサージカルマスク・N95マスクを使っても、感染しないようにすることは難しいです。

加藤 えっ、なぜですか?

伊与 なぜなら、ウイルスは眼からも入りますし、マスクと顔の間に隙間ができてしまうからです。飛沫感染よりも接触感染の方が多いと考えられるので、感染経路として注意が必要なのは手指です

加藤 ウイルスが眼から入ったり、隙間から入ったりするということは、医療従事者にとってもうつる可能性が高いということでしょうか?

伊与 可能性はありますが、医療従事者は感染予防の知識がありますので、サージカルマスクやN95マスクを使って、一般の人よりもより効果的に感染防護ができます。

マスクは感染経路の遮断に役立つ

加藤 では、一般の人はどうしたらいいのですか?

伊与 一般の人は感染予防のため、次の①と②を徹底してほしいと考えています。
①手洗い、手指消毒、せきエチケット、快食・快眠・快便
②集まらない、近づかない、閉鎖空間にいかない(いわゆる、集・近・閉〈しゅう・きん・へい〉をさける)

加藤 ということは、マスクは必要ないということでしょうか?

伊与 そんなことはありません。マスクのもう一つの目的である「相手にうつさない」ために着けていただきたいです。咳エチケットのアイテムとしても有効です。新型コロナウイルス感染症の場合、感染していても無症状の場合があるので、感染していることに気づいていない方も多いと思います。そのため、マスクで、咳やくしゃみ・つばの飛沫飛散を防止・低減することは、感染経路を遮断することに役立ちます。

加藤 咳やくしゃみって、突然出ることがあるので、ハンカチや袖などで覆うとしても間に合わないときもありますよね。では、一般の人がマスクをする場合、どれを選んだらよいですか?

伊与 まずご理解いただきたいこととして、現状のようにマスクが不足している状況では、医療体制を崩壊させないようにするために、サージカルマスク・N95マスクは医療従事者に優先提供することが大事だと考えます。
そもそも、N95マスクのような高性能なものは空気を吸うこと自体が大変で苦しくなるので、日常生活には不向きです。
一方、布マスクは、サージカルマスクよりも濾過機能は明らかに落ちますが、飛沫飛散の防止・低減では有効です。しかも、洗って何回も使えるので、とてもリーズナブルです。界面活性剤である洗剤で洗えば、ウイルスも落ちやすくなります。使用状況にもよりますが、マスクを1日使ったら洗う必要があります。布マスクの洗浄方法に関する政府広報動画も公開されています。ただし、繰り返し洗って使うことにも限度があるという常識も必要です。きれいな状態を維持する努力と注意が必要です。

加藤 サージカルマスクは、洗って何回も使うことはできないのでしょうか?

伊与 もともとサージカルマスクは、洗って再利用するものではなく、使用したら捨てるものです。製造メーカーは、エタノール消毒をするとウイルス等の粒子捕捉効果は低下すると説明しています。この場合でも、相手にうつさないという目的ならば、なんとか代用できますが、本来の使用方法である1回使ったら捨てるという使用方法が良いことには変わりません。

マスクだけでなく手洗いや手指消毒との組み合わせが大事

加藤 私たちが今できることは、相手にうつさないために、マスクを活用することですね。その場合、サージカルマスクの余裕があればいいですが、今はそういう状況でないので、布マスクを有効活用できることが分かりました。

伊与 そうですね。一般の人がサージカルマスクと布マスクを使った場合でも、「人にうつさない」ということが主目的になるということです。
繰り返しになりますが、マスクだけでなく手洗いや手指消毒との組み合わせが大事です。そして、「集まらない、近づかない、閉鎖空間にいかない」の徹底もお願いいたします。

加藤 私たちは、最も優れた一つの方法を求めがちですが、そうではなく、ベターな方法を組み合わせながら、状況に応じてよい状態を保つことが必要なのですね。
伊与さま、ありがとうございました。

イラスト©井上きみどり

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。
小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業を展開。
災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組んでいる。

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