子どもの便秘は、大人の便秘と仕組みがちがい、早めにケアをしなければ徐々に悪化することがあります。
長年にわたり赤ちゃんや子どもの便秘治療を行い、著書に『赤ちゃんからはじまる便秘問題』(言叢社)がある、中野美和子先生(神戸学園、さいたま市立病院小児外科/非常勤・元部長)に、子どもの便秘の特徴や治療について聞きました。
(※この記事では主に1歳~学齢期前の場合についてお聞きしています。)
直腸に便がたまると、食事での改善は難しい
――子どもの便秘は、食事や生活で治すのがいいと考える人が多いと思います。実際は効果があるのでしょうか?
中野先生(以下、敬称略):食事や生活習慣の改善はもちろん基本です。でも、注意が必要なのは「便秘の予防」や「軽い便秘」には有効だけれど、症状の進んだ便秘を、食事や生活だけで改善するのは無理だということです。
肛門手前の直腸にうんちがたまるのが、子どもの便秘の特徴です。出口のところで硬くなった大きなうんちがふたをしている状態なので、直腸にたまったうんちを取り除いて、直腸が伸びた状態を元に戻してあげるように治療しないと、食事や生活の改善が効果を発揮しないのです。
――うんちがたまると、「直腸が伸びてしまう」ということについて詳しく教えてください。
中野:排便のとき、通常はからっぽの直腸に便が降りてきて、直腸が一時的に広がることで「便意」を感じます。そして排便をすると、また直腸はからっぽになりしぼみます。
子どもの便秘で9割以上を占めるのが、この直腸にうんちがたまりうまく出せないという状態です。
中野:子どもが便秘になるきっかけとして多いのは、排便のときに痛い、あるいは苦しい思いをすると、次に直腸に便が降りて便意を感じても、我慢してしまうというものです。
はじめは2~3日ぐらいに一度排便していたのが、排便が痛くて怖いので、便意が出てもすぐに出さず、少しがまんして4日目に排便します。すると直腸に4日分のうんちがたまる大きさまで広がっていきます。4日目に排便して痛い思いをすると、それが怖くて今度は5日目まで我慢して、直腸もまた広がる、という具合です。
この悪循環に入ると、直腸がからっぽになってもぶかぶか気味の鈍い状態になるので、出しやすい1~2日分の大きさのうんちが直腸に来ても便意を感じなくなります。
大きな塊のうんちは便秘のサイン
――子どもにはどんな症状が出るのでしょうか?
直腸に便がたまって、出口をふさいでいる状態なので、おなかがはって苦しく、ごはんを食べられなくなったり、ガスもたまります。
直腸まで便がきているので、子どもはいつも便意があって落ちつかない状態になります。いらいらしたり、騒いだり、走り回ったり、隅っこに隠れたりすることがよくあります。
いよいよ我慢ができなくなって排便するときは、痛みで大泣きしたり、大人が心配になるほど顔を真っ赤にしたり、うんちに血がついたり、なかには脱肛を起こしてしまう子もいます。
大きな塊のうんちがよく出るのも便秘の特徴です。缶ビール(直径6㎝)くらいの太さとのうんちが出たとよく言いますが、トイレに詰まることもあります。状態はねっとりしているか硬いかで、なかなか崩れず、においもきついです。缶ビールほど太くはなくても、いつもすごく太いうんちしか出なければ便秘の可能性があります。
うんちを出してしまえば元気になり、急に食欲が出て良く食べるようになりますが、数日経って、うんちがたまり始めるとまた具合が悪くなるというのを繰り返します。
下着にうんちがつくのは便秘かも
――それは本人も保護者も大変な状態ですね。こういう状態のとき、他に周囲が気づいてあげられるような特徴はありますか?
中野:子どもによっては、うんちが漏れることもあります。たまっている便の先のほうがこぼれ出てきて、うさぎのような「ころころ便」が漏れることもありますし、硬いうんちの先がこすれて、下着やおしりに砂のようなうんちがついていることもあります。
「うまく拭けなかったのかな?」と思われがちですが、何度も下着にうんちがついている場合は、便秘を疑ってみてください。
さらに、大腸の上のほうでドロドロしたうんちになると、硬いうんちの脇をすり抜けて漏れてくることがあります。下着にベタッとしたうんちがついていたり、時にはかたまりごと漏れてしまうこともあります。
中野:こうした症状は、直腸に硬いうんちがたまっている状態で、うんちを柔らかくする薬を飲んだときにも起こります。
子どもはわざとうんちを漏らしているのではなく、漏れてしまうのを自分ではどうにもできないのです。本人は何が起きているかわからなかったり、恥ずかしかったりするし、保護者もどうしていいかわからず悩んでいます。保育園などではぜひこうしたことを知っておいてほしいと思います。
――そういうときはどう対処すればいいのでしょうか?
中野:出口をふさいでいるうんちを出すことがまず必要ですので、子どもの便秘に詳しい病院を受診してください。病院で浣腸をするなどしてうんちを取り除くことが最初の治療になります。
日本トイレ研究所:子どものための排便相談室(便秘に詳しい病院リスト、Q&Aなど)
鈍くなってしまった直腸を元の状態に戻すには長期間かかるので、便秘を疑ったら早めに病院を受診してください。できれば3歳までに治療が終わっているか、終わらないまでも治療が軌道にのっていると良いです。治療が遅れると、それだけ悪化する可能性が高いのです。
浣腸や飲み薬による治療で直腸に便をためない状態を維持していれば、生活習慣や食事の改善も効果が出るようになってきます。
薬が「くせになる」ことはない
――薬をずっと飲んでいて、いわゆる「くせになる」ということはないのでしょうか?
中野:薬がくせになるということはありません。子どもに処方する便秘薬に多いのは、腸ではなく、うんちに働きかけて、うんちの水分量を増やす薬です。腸を刺激する薬も必要なら処方することもありますが、くせになることはありません。
薬を止めるとうんちが出ないのは「くせになった」のではなく、「まだ薬が必要な状態」ということです。一時的によくなっても、お薬の助けでうんちが出ている状態ということもありますので、必ず主治医に相談してください。
薬剤師のアドバイスにより、市販のマルツエキスや水酸化マグネシウムを飲むことも問題ありません。ただ酸化マグネシウムを長く飲み続ける場合は、いったん病院を受診することをおすすめします。
注意してほしいのは、病院を受診せずに漢方薬を常用することです。漢方の便秘薬には大人用の強い薬が混じっていたりするので、原則として医師の指導のもとで使って下さい。
子どもの食事はまず、「量」が大事
――軽い便秘や、治療でよくなってきた便秘のときに、食事で気をつけることはありますか?
中野:子どもの便秘にとって大事なのは、まず食事の量です。体に良いというものを無理に少量食べるより、好きなものをたくさん食べるほうがいいのです。
食事は楽しく、まず量をしっかり食べるというのを大事にしてほしいと思います。ただし、食事はお菓子のことではありませんよ。「お菓子ばっかり」になることには避けてください。
お菓子って、なにも天から降ってくるわけではないですよね。必ず大人が買ってきているんです。だから子どもの食べるお菓子を減らそうとしたら、家族全体が減らす必要があります。子どもにだけ食べるなと強制するのは、子どもからすれば納得できませんから。
排便記録で子どもに合った対策がわかる
――保護者が子どものうんちを記録することについてはどうですか?
中野:子どもの排便の記録をつけると色々いいことがあります。
まずは、出る・出ないのチェックだけでもいいですし、どんなうんちが出ているかまで記録できたらいいですね。毎日うんちが出ていても、小さいうんちが少量なら便秘の可能性があります。
一定期間の記録をしてみると、どんなときに便秘になりやすいかがわかるようになります。家でリラックスしているときにうんちが出やすい子は、保育園では相当緊張している可能性が高いので、そのことを理解し、保育士さんたちとこのことを共有する必要があります。反対に、長いお休みに便秘になりやすい子は、家でも規則正しい生活をさせてみてください。
早寝早起きや、3食きちんと食べて生活リズムをつけることは、排便のためには良いことですが、こだわりすぎて親がストレスをためないことも重要です。排便のことなどで、少しうまくできないことがあっても、親は子どものことを認めてあげてほしいなと思います。
中野先生が出演する、オンラインイベントは下記
2020年11月14日(土)「トイレに、愛を。フォーラム 子どもの排便・栄養・睡眠の悩みにお答えします!」
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