災害時のトイレ

平成30年7月豪雨 断水しているのに水が出るのは、なぜ?

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

2020/07/02

平成30年(2018年)7月豪雨(西日本豪雨)から今年で2年が経ちます。昨年は、8月の九州北部豪雨、そして9月の台風15号、10月の台風19号いずれも各地に深刻な被害をもたらしました。

停電すると、断水する可能性が高く、それとともに水洗トイレが使えなくなります。

今回は、平成30年7月豪雨による被害のあった愛媛県の西予市野村支所、西予市社会福祉協議会、西予市地域包括支援センターの方々に、そのときのトイレ事情について話をお聞きした内容をご紹介します。

西予市地域包括支援センターの正面

浸水被害から2日後に断水

この地域が浸水したのは、2018年7月7日(土)AM7時30分ぐらいでした。

土砂崩れで道路が通れないこともあり、スタッフがセンターに到着したのは、最初の人でAM10時頃、それ以外のスタッフは翌日に来るのがやっとのことでした。ちなみに、センターは地下が駐車場になっていため車14台が水没してしまいました。

西予市地域包括支援センターの裏側(肱川沿い)

西予市に連絡したところ「避難所支援に行ってほしい」という依頼があったため、スタッフは地域の野村地区の避難所に支援に行きました。

避難所では、浸水被害が発生した7日と8日は水道水が出たのですが、9日から断水になりました。

なぜ、浸水直後ではなく2日後に水が出なくなったと思いますか?

正確な状況は分からないので、推測でお答えします。

実はこのようなことは、過去の震災でも同様に起きています。

避難所の給水の仕組み

まずは、避難所となる小中学校の給水の仕組みを簡単に説明します。もちろん、給水の仕組みは様々な方式があるため、ここでは一例としてご理解下さい。

配水管をとおって敷地内に運ばれてきた飲み水は、地上に設置してある受水槽に一旦溜めて、ポンプの力で屋上に運ばれ、高置水槽というタンクに溜められます。そして、ここにたまった水は自然流下でそれぞれのトイレに供給されます。

つまり、配水管の被害で建物への水の供給がストップ、もしくは停電でポンプが止まったとしても、高置水槽からトイレまでの経路が被害を受けていなければ、高置水槽に蓄えられていた分の水が出ます。

災害時にトイレや蛇口から出ている水が、どの水なのかを知ることはとても重要だと思います。

地域が断水していて、貴重な高置水槽の水が出ていることに気づかず、いつもと同じように水洗トイレを使ってしまったら、高置水槽の水はあっという間に無くなると思います。そんなのもったいないと思いませんか?

建物の給水の仕組みがどのようになっているか、高置水槽や受水槽がある場合はその貯水量を知っているかどうかで、その後の対応が大きく異なります。ぜひ、調べておいてください。

野村地区の避難所では、高置水槽の水が出ているということは分かっていましたが、貯水量は分かりませんでした。そのため、避難者の方々は、この水がいつまでもつのかを心配しながら、できるだけ無駄使いしないようにしました。

たとえば、手洗いはウェットティッシュと手指消毒液を使い、9日に断水してから13日に上水が復旧(避難所)するまでは、プールの水をトイレ洗浄に利用しました(電気は7月11日に復旧)。

もし排水管が被害を受けていたら、プールの水でトイレ洗浄をすることができませんし、プールに水がなければ他の方法を考えることが必要になります。

参考:北海道胆振東部地震、避難所となった小学校のプールに水がなかった理由

トイレの備えは最低1週間

外部からの支援物資として簡易トイレが避難所に届いたのは13日で、上水復旧と同タイミングだったため、簡易トイレを使用せずにすみました。また、地域に仮設トイレが配備(7個所15基)されたのは17日でした。今回は発災から7日目に簡易トイレ、11日目に仮設トイレが届いたことになります。

被災状況によって、外部からの支援が到着する日は異なります。最低でも1週間は自助でしのげるようにしておくことが必要だと思います。

災害時のトイレの備えの大切さを話すと、「いざとなったら穴を掘ればいいのでは?」という意見を聞くことがあります。ですが、それはおススメできません。

地域包括支援センターの方は、被災者から「市街地で穴を掘るのは無理」「トイレは慣れたところでしたい」「トイレのときだけ家に帰った」「支援物資としての紙おむつを待ち望んでいた」という声を聞き、とくにオストメイトの方は苦労されていたそうです。そして、災害時はこのような状況になるからこそ、「日頃からトイレが使えないときの練習が必要」と言っていました。

トイレは命にかかわります。自分自身はもちろんのこと、家族や同僚のことも考えて、ぜひ備えてください。そして、一度使ってみてください。その取り組みが、いざというときに必ず役に立ちます。

まとめ

□震災でも水害でも、断水する可能性は高い

□建物の給水と排水の仕組みを知ることが大事

□トイレの備えは最低1週間

□トイレが使えないときの練習が必要

□トイレは命にかかわる

(本記事は、note「うんちはすごい!」から転載しています。)

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。
小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業を展開。
災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組んでいる。

PICK UP合わせて読みたい記事