前回は、年をとると尿や便をうまく「出せない」ことが増えるというお話をしました。今回は、逆です。年をとると、尿や便の失禁が増えるというお話です。
年をとると失禁は増える
突然ですが、皆さんは尿や便を漏らしてしまったことがありますか?
誰でも苦い思い出があると思います。ギリギリセーフだったこと、間に合わなかったこと、その時の絶望的な気持ち、私も鮮やかに覚えています。
誰にとっても失禁は嫌なものです。しかし残念ながら、年をとるとそのリスクは上がります。では、その原因は何でしょうか?
失禁の原因
まずは、トイレに行く回数が増えるということです。
医学的には、昼間8回以上、夜間1回以上の排尿は頻尿(ひんにょう)とされます。海外の調査では、60歳以上の約7割は、就寝中に1回以上、排尿のためにトイレに行くと報告されています。水分の摂りすぎや膀胱の問題など、頻尿の原因は様々です。排尿の回数が増えれば、当然、失禁のリスクも上がります。
次に、突然やってくる猛烈な尿意が増えるという原因があります。
これは尿意切迫感(にょういせっぱくかん)と言って、年齢が高くなるほど増えます。すぐにトイレに行けない状況で、急に我慢できないほどの尿意がやってきたら…。尿意切迫感は、失禁どころか、慌てて転んで骨折してしまう原因にもなりかねません。
失禁には、筋肉の衰えも関係しています。筋肉は全身にありますが、失禁に直接関係するのは、尿道や肛門の周りにある骨盤底筋(こつばんていきん)という筋肉です。年をとって骨盤底筋が衰えると、尿道や肛門を締める働きが弱くなり、失禁してしまいます。
そして、トイレに行くための足腰の筋肉も大切です。筋肉は使わなければすぐに衰えます。年のせいとあきらめず、積極的に骨盤底筋や足腰の筋肉を鍛えることが大切です(最近では、骨盤底筋トレーニングを動画で説明しているサイトもあります)。
最後に、認知機能の衰えがあります。
高齢者の高齢化が進む日本では、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるとも言われています。尿意や便意を感じ、トイレに行き、服を脱ぎ、排泄し、後始末をするという一連の活動をスムーズに行うためには、状況の理解と適切な判断をする認知機能が欠かせません。認知機能が低下した高齢者の失禁対策には、定期的にトイレに誘導するなどの他人からの働きかけが必要になります。
失禁とうまく付き合う
私は以前、失禁があっても積極的に社会参加していた高齢者へのインタビュー調査をしたことがあります。お話を伺った方々は、「人と関わりたい気持ち」、「体を動かさなくちゃという気持ち」、そして「失禁をコントロールできる自信」がとても強かったことを覚えています。また、尿取りパッドを上手に活用していた方、活動範囲の利用可能なトイレをしっかり確認していた方、失禁のことをあまり気にしていなかった方もいらっしゃいました。
失禁に悩まされる人は、これから確実に増えます。予防や治療はもちろん大切ですが、私たち一人ひとりや社会がもう少し失禁に寛容になってもよいのではないかと思います。なるべく失禁しない、失禁しても落ち込みすぎない、そんな高齢期を送りたいものです。
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