災害時のトイレ

イタリアに学ぶ「災害時のTKB」とは?

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

2020/09/03

みなさんは、「災害時のTKB」をご存じでしょうか?

命を守る「TKB」とは?

TKBとは、トイレ・キッチン・ベッドの略です。
なぜ、避難所でTKBが重要かというと、これらがしっかり整っていないと命を落とすことにつながるからです。トイレに関しては、「トイレが嫌で体調を崩すメカニズム」を参考にしてください。

避難所と言えば、トイレは応急的に屋外に仮設トイレが設置され(道路が寸断されていたりすると仮設トイレすら来ません)、しかも数は足りず、ほとんどが和式で段差あり。そして食事は冷えたおにぎりや弁当、パン。体を休める場所は、ギュウギュウ詰めで床に雑魚寝です。
このような状況であっても、災害時だからしょうがない、我慢するしかない。というのが日本における共通認識だと思います。
しかし、世界に目を向けてみると、この難題に必死にとりくむ国がありました。
それは、イタリアです。


具体的には「安心できるトイレ」「温かい食事」「ベッド」をすぐに届けられるように最善を尽くしているのです。実際、3年前のイタリア中部地震のとき、地震発生から48時間以内に快適なコンテナ型トイレ、家族ごとのテントとベッドが提供されたとのことです。

イタリアの災害ボランティアは有給?

実は私、2017年1月にTKBを学ぶため、避難所・避難生活学会のメンバーと一緒にイタリアを視察しました。

そのとき、ポルトサンテルピーディオ市(人口約26,000人)のオペレーションセンターをヒアリングしました。マルケ州(人口約300万人)で最も大きい災害支援のためのオペレーションセンターで、震度を図ることもできるし、停電時はラジオ(防災無線)で連絡して行動するようになっています。
ちなみに人口規模でいうと、300万人というのは茨城県や広島県と同じぐらい、人口26000人というのは高知県土佐市や熊本県阿蘇市の規模になります。

写真:オペレーションセンターの防災無線室(右:榛沢和彦医師)
写真:オペレーションセンターには複数の建物や常設テントがあり、様々なものが備わっている

もし、災害が起きたときは、市長が来て指揮を執り、災害の規模が大きい場合は、イタリア政府とマルケ州も動くことになっています。
また、このオペレーションセンターは、日頃、市民安全局のボランティアで運営されていて、主に平日の夕方と土日が活動時間帯となっています。
活動と言われると、何をやっているのか気になりませんか?

なんと、公園のドッグランの整備や維持管理なども担っています。
防災訓練ではないのです…
常日頃から、施設に集まり顔を合わせておくことが大切ということのようです。

そして、災害が発生すると、有給ボランティアとして各専門職(電気、テント張りなど)が集合して対応にあたります。
なぜ、そんなことが出来るかというと、発災時には最長3か月間の休暇(平均すると1週間程度)をとって被災支援にあたることができるルールがあるからです。しかもその人件費は、会社に政府が負担することになっています。
こういうルールがあると安心して支援に取り掛かれますね。

イタリアのコンテナ型トイレカー!

被災者は避難所となる体育館へ避難することになっています。この点は日本も同じですね。ただし、そこに入りきらない規模の場合は、マルケ州が事前に決めた場所(公共用地)にテント村をつくります。テント村の規模は300人くらいで計画されていて、運営期間は長くても3~4か月間で、このテント村に、コンテナ型のキッチンカー、シャワーカー、トイレカーを送り込むことが計画されています。1つのトイレカーにはトイレ個室が4個室程度あり、5~10コンテナほど配置予定。これらのコンテナはマルケ州の倉庫に保管されていて、倉庫は全国に14か所あります。1番大きな倉庫はシチリアで、マルケ州の倉庫は2番目の規模です。

ということは、300人あたりトイレは20~40個室なので、7~15人に1個室という計算になります。ちなみに日本におけるトイレ個室の目安は、国のガイドラインで以下のようになっています。

・災害発生当初は、避難者約 50 人当たり 1 基
・その後、避難が長期化する場合には、約 20 人当たり 1 基

イタリアの方が充実していますね…
トイレに関しては、発災後の最初の1週間程度は、コンテナ型のトイレカーに貯留したし尿をトラックに移し替えて搬送するが、1週間後には仮設配管により通常の水洗トイレシステムとして利用すると言っていました。
このオペレーションセンターにはコンテナ型のトイレカーがないため、見ることはできませんでした。残念です…
ですが、このときご一緒した水谷嘉浩さん(Jパックス株式会社)から別の機会に撮った写真をいただきましたので、紹介します。

イタリアのコンテナ型トイレカー

メチャクチャかっこいいじゃないですか!!!
しかも、エアコンも完備しています。
もちろん車いす用のトイレもあります。それが次の写真です。

イタリアの車いす用のトイレ

イタリアの取り組みで学ぶべきことは「災害時だからしょうがない、我慢するしかない」と言ってあきらめないことです。繰り返しになりますが、トイレを我慢することは命を落とすことにつながります。快適なトイレ環境を整えることは、贅沢ではありません。命を守るために必要なことです。

日本型の「TKB」を目指して

このような中、避難所・避難生活学会は、「快適で十分な数のトイレ」「温かい食事」「簡易ベッド」が必要であることを提言として発表しました。
日本の人材、日本の技術、日本の叡智があれば、世界に誇れる防災を実現することができます。
あとは「やるかやらないか」だけです。
もちろん答えは決まっていますよね。
安心できるトイレ、安心できる避難所を目指して、取り組みましょう!

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。
小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業を展開。
災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組んでいる。

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