災害時のトイレ

タワーマンションから考える都市の防災|浸水の危険に備えていますか?【前編】

日本トイレ研究所
日本トイレ研究所
Japan Toilet Labo.

2020/03/05

備えが8割、アドリブは2割

皆さんは地震や水害に対して、具体的な備えをしていますか?

ある防災専門家の方によると災害現場では「備えが8割、アドリブは2割」なのだそうです。普段やっていないことを、災害時、不安や焦りのなかで急にやろうとしてもできないというのは納得です。

日本トイレ研究所では、昨年の台風19号で被害を受けた武蔵小杉(神奈川県川崎市)のタワーマンションにお話をうかがってきました。

数百世帯が入居するこちらのタワーマンションでは停電・断水の被害が発生しましたが、防災・防犯委員会が中心となり事前に災害時の対策を準備していたことで、被災時にも迅速な対応をとることができました。

防災担当の居住者の方にお話をうかがった模様を、2回に分けてご紹介します。都市部やマンションにおける防災を考える上で参考になると思います。

以下、防災・防犯委員の方のお話を紹介します。

初動対応のタイミングは決めていた

台風19号が関東に接近した10月12日当日は、事前の警戒情報などから浸水のおそれがあると判断し、エントランスに常駐している管理会社に、午前中からマンション前の歩道の様子を定期的に目視で確認するよう頼んでおきました。

16時頃になり、地下駐車場への入口が浸水しそうだという報告を受け、防災・防犯委員10名ほどが参集しました。敷地内で最も低い地点が地下駐車場入口であることを測量して確認していたので、そこに浸水の危険が生じたタイミングで対応を開始すると決めていました。浸水被害については3年前から止水対策を検討し、出来るものから準備をしていました。

あらかじめ備えていた防潮シートを地下駐車場入口に設置しようとしたところ、シートの一部に縮みがみつかり、隙間なく設置することができませんでした。防潮シートは購入から時間が経過しており、交換手配を進めていました。

防潮シートの設置が難しいことがわかり、備蓄していた「吸水土のう」の設置に切り替えることにしました。一般的に浸水対策として知られている「土のう」は袋の中に詰める土の調達が大変なので、水で膨らみ浸水を防ぐことのできる「吸水土のう」を備えていました。

吸水土のうを設置してしまうと、外から戻ってくる居住者の車が駐車場に入れなくなるため、ギリギリのタイミングまで待ちました。目の前の道路が冠水し始めたタイミングで、これ以上は危ないと判断して設置を開始しました。

その間にも浸水しそうな範囲がどんどん広がっていったため、設置する範囲をエントランスまで広げていきました。吸水土のうが足りなくなってからは、備蓄用の飲料水が入っている段ボール(1.5ℓペットボトル×6本)をビニール袋で包んで、隙間なく並べていきました。これは防災知識を持つ居住者のアドバイスでした。

止水作業の手が不足することが予測できたので、全館放送で居住者からボランティアを募りました。

ボランティアのほかに、段ボール箱を包むビニール袋を持ってきてもらうなど、多くの方にご協力いただきました。居住者からのボランティアは中学生、高校生を含め200人近くになったと思います。

地下の雨水貯留槽があふれる

一番雨が激しくなる21時頃まで浸水防止の対応を続けた結果、地下駐車場入口とエントランスからの浸水は防ぐことができました。

ところが、マンション地下にある「雨水貯留槽」にポンプの排出能力を超えて雨水が流れ込み、貯留槽からあふれていました。そこで、あふれてくる雨水を人力で汲み、別の貯留槽に流し込む作業を開始しました。

通常、敷地内の側溝に流れた雨水は一旦「雨水貯留槽」に溜まり、そこから電動ポンプで排出され、最終的に下水管へと流れます。給排水設備、電気設備の多くは地下3階にありました。

しかし徐々に水位は上がり続け、深夜0時頃に電気設備が浸水しそうになったため、感電のおそれがあると判断し、作業を中止しました。作業は管理会社立ち会いのもとで行っており、安全最優先の判断をしました。停電したのは日付が変わった10月13日の午前2時頃でした。

深夜0時頃には雨は弱まりましたが、敷地内に浸水した水が地下に流れ込んでいったのだと推測されます。

翌朝7時に災害対策本部を立ち上げ

翌朝に管理会社、売り主、建て主が到着すると、すぐに状況確認や復旧工事が始まりました。防災・防犯委員や理事は1階エントランスにある会議室で朝7時頃に災害対策本部を立ち上げ、管理会社などと情報交換を開始しました。

停電によってエレベーター、照明などの電気機器が使えなくなったほか、断水が起こっていたためトイレやお風呂も使えなくなりました。各住戸への給水は地下の給水設備から電動ポンプで送水しているため停電と同時に断水が起きてしまったのです。

エレベーターが止まったため、非常用階段を使って降りてくる人もいましたが、特に混乱するようなことはありませんでした。

地震を想定した訓練では、各階のエレベーターホールに集まって安否確認をすることになっていましたので、隣近所同士では安否確認や情報交換をしていたと思います。

LINEと掲示で居住者へ情報共有

パニックにならなかったのは、東日本大震災の時に停電を経験していたことも影響したと思います。

停電で全館放送ができなかったのでまず、①1階エントランスにホワイトボードで掲示を行いました。その後、午前中にはIT委員会の発案で、②LINEのオープンチャット機能を使い、居住者専用のチャットを立ち上げ、参加を呼びかけました。LINEを使わない高齢者には、③すべての階のエレベーターホールに紙で掲示を行うことで伝えました。

紙やホワイトボードでの掲示は情報が変わるたびに更新しました。初日はすべての階への掲示を2度行い、その後もエレベーターが復旧するまでの1週間ほど、1日1回は階段で最上階まで往復して、掲示内容の更新をしました。

後編はこちら

日本トイレ研究所
日本トイレ研究所
Japan Toilet Labo.

「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

PICK UP合わせて読みたい記事