災害時のトイレ

タワーマンションから考える都市の防災|停電にも携帯トイレの備えを【後編】

日本トイレ研究所
日本トイレ研究所
Japan Toilet Labo.

2020/03/05

前編に続き、武蔵小杉(神奈川県川崎市)のタワーマンションで防災・防犯委員をしている方のお話しから都市部の防災について考えたいと思います。

昨年の台風19号により、数百世帯が入居するマンションで停電・断水が起こったときの対応をお話しいただきました。

以下、防災・防犯委員の方のお話を紹介します。

(by photoAC)

水と携帯トイレを各階に備蓄

はじめに居住者に周知したことのひとつは、「トイレに水を流さないで」ということです。断水しているなかでもタンクに残っている水や、風呂の残り湯などで流そうとした方はいたと思いますが、すぐに周知したためトラブルは発生しませんでした。

各階の共用部分に、各戸あたり1~2日分の水と携帯トイレを備えていました(1戸3人を想定)。加えて日頃から居住者の方にも自宅に最低3日分の水と携帯トイレを備えるようアナウンスしていました。

備蓄のきっかけは、東日本大震災による停電と、川崎市で備蓄を推進する取組みがあったことです。

今回の台風19号では被災直後に、居住者から「トイレはいつまで使えないの?」と聞かれましたが、各設備の被害状況を確認する必要もあり、「しばらく」としか答えられませんでした。結果的に、携帯トイレを備えていたのはとても役に立ちました。

被災当初はまず各自で備蓄している携帯トイレを使ってもらう想定でしたが、備えていない方もいたため、初日から共用部の備蓄品を使用しました。

備蓄していた携帯トイレは、袋に凝固剤を入れるものでした。被災後に、追加で袋と吸収シートが一体型のものなども調達しました

使用した方によると、一体型のタイプは設置が簡単な点が評価され、凝固剤を入れるタイプは捨てる際にかさばらない点が評価されていました。防災・防犯委員としては、保管時にコンパクトに収納できると備蓄がしやすいことも重要と考えます。

一方で、香料付きの携帯トイレは、快適に使えたという人もいれば、香りが苦手という人もおり、使用感は個人で異なりました。

使用後の携帯トイレはニオイ漏れで困ることはありませんでした。自治体によるごみ収集は通常通り行われていましたが、エレベーターが止まっていたのでは、高層階や高齢の方は自宅にごみを保管していた人もいたようです。

備えていてよかったもの

携帯トイレに加え、各自で備えていて便利だったのは、両手がフリーになるヘッドライトや、電池で動く携帯用ウォシュレットです。用を足すときは両手が空く照明が必要だと思います。ウォシュレットも必要な方は備えていると安心です。

手指衛生にはウェットティッシュ等を使いました。大判で、保管時に乾きにくいものだと、なおよいと思います。

今回は、エレベーターが止まった影響が大きく、居住者の約3分の1はホテルや親類宅へ移動されました。また、日中は出勤している方も多かったので、携帯トイレをあまり使わなかった人もいました。

災害時には飲用水の確保も難しくなる

被災から3日後に備蓄の水がなくなりかけた際には、飲用水600ケース以上を階段で運びました。居住者から募ったボランティア約50名と、日本警察消防スポーツ連盟からのボランティア約20名で、バケツリレー方式で飲用水1.5ℓ×6本入りの段ボール箱を、各階に15箱ずつ運びました。2日がかりで計6時間ほど作業しましたが、非常に大変でした。

災害時には飲用水の確保すら難しいということを実感しました。必死に運んだ水をトイレに流すということは、たとえ排水ができたとしても考えられないと思いました。

地域の助けで充電・お風呂・洗濯ができた

周囲の施設が通常通り動いていたことには大変助けられました。

トイレについては、商業施設や駅、行政の施設、周辺マンションにお借りすることができました。スマホの充電では商業施設から、お風呂はスポーツジムや銭湯から、洗濯はクリーニング店やコインランドリー店からご支援をいただき、非常に助けられました。

その他にも様々なご支援をいただき、地域の皆さまには改めてお礼を申し上げます。

自動洗浄トイレは復旧時に注意

エレベーターは約1週間後に復旧しました。

上水も約1週間後に出るようになりましたが、保健所の水質検査の結果が出るまで飲用にすることはできず、飲用ができるようになったのは被災から2週間後でした。

また、排水設備も1週間ほどで復旧したのですが、上水の復旧よりも1日遅かったため、その間は水が出てもトイレを使わないように周知しました。入居者が一斉に水を流すと、地下に設置された汚水槽があふれる恐れがあるからです

特に注意したのは、便座から立ち上がると自動で流れるトイレです。電源プラグをコンセントから抜いておかないと、水が流れてしまうからです。今回は幸い、トイレ復旧時のトラブルは起こりませんでした。

災害対策本部の照明は、カセットボンベで動く簡易的な発電機を地域のほかのマンションからお借りしたり、管理会社に手配してもらい使用しました。当マンションには非常用発電機を備蓄していましたが、地下3階にあったため浸水してしまったのです。今後は保管場所を分散させるなどの対策を考えています。

ひとりひとりの防災意識が重要

大地震などで広域が被災した場合、状況はまったく違ってくると思います。携帯トイレについても、居住者の多くが自宅にいる場合を想定し、使用後のごみの管理などの対応を今後も検討していきます。

平常時からの備蓄や、災害発生時の手順を決めていたことはとても役に立ちました。携帯トイレについては今回初めて使って戸惑った方もいるかもしれませんので、事前に使ってみることが必要だと思います。

居住者によって防災意識には差があると思いますが、日頃から訓練に参加する人を増やすことや、防災・防犯委員会からのこまめな発信が大切だと改めて実感しました

日常の通信手段が使えない状況になったとき、どうやって正しい情報を共有するか、考えておくことが重要だと思います。

防災・防犯委員会として大規模災害を念頭においてさらに対策を強化していきたいと考えています。

(以上、防災・防犯委員の方のお話でした。)

災害に備えて携帯トイレを

お話をうかがってみて、タワーマンションにおいて在宅で避難生活を送るには携帯トイレが不可欠であることを再確認することができました。

日本トイレ研究所が過去に行なった調査では、「大地震で地域全体が停電・断水している時、あなたはどちらでの避難生活を選びますか」という問いに対し、「自宅」と答えた方が約7割に上りました。(「大地震におけるトイレの備えに関する調査結果」(PDF)、2018年

災害が発生した際、自宅での避難生活が可能であれば、携帯トイレは自宅の便器に取り付けて簡単に使用することができます

携帯トイレの備蓄数としては、1人あたり1日5回を目安として、1週間分の備蓄をおすすめします。ウェットティッシュやアルコール消毒液などの手指衛生用品や、ヘッドライトやランタンなどの照明とあわせて、ぜひ備えておいていただきたいです。

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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