おすすめトイレ

月経(生理)は災害時も止まらない! ~避難所や学校のトイレ内で生理用品が提供される仕組みを~

杉田 映理
杉田 映理
大阪大学 人間科学研究科

2021/11/25

避難所と生理用品

災害が発生したときの大きな困りごとがトイレだということは、日本トイレ研究所が繰り返し発信してきたことです。うんちやおしっこは止まらない!そして、忘れてはいけないのは、月経も止まらない、ことです。防災グッズを詰めたリュックに、生理用品を入れている人は多いと思いますが、避難所での滞在が続いて、たまたま自分の周期が来てしまったら、多分生理用品は足りなくなるでしょう。使い捨ての生理用品ではなく、布ナプキンや経血を直接吸収するショーツ、あるいは月経カップの利用者も、断水しているような状況では普段通りのお手入れができず、使い捨ての生理用品に頼ることになるかもしれません。

2015年の内閣府の報告書によれば、避難所等を設置している自治体のうち、避難所の備蓄品として生理用品を備えていると回答した自治体は、15%ほどに過ぎませんでした。その後、防災備蓄品として生理用品を準備しているところも増えてきているようです。また、避難所における生理用品の必要性を理解して、支援物資として寄贈してくれる団体や個人もいるようです。大変ありがたいことです。

一方で、避難所に生理用品のパッケージがたくさん来ていても、公衆の面前でもらいに行くのが恥ずかしい、あるいは、経血量が多くて生理用品もたくさん必要ではありながら、遠慮して追加でもらえない、などの女性の状況が報告されています。生理用品のパッケージを、体育館内のような空間ではなく、もう少しプライバシーのあるところで配布することが望まれますが、もう一歩進んで、生理用品を交換する場でありプライバシーが確保されるトイレの中で、生理用品が提供される仕組みが必要なのでは、と考えます。

生理用品の無償提供用ディスペンサーの開発

大阪大学ユネスコチェアでは、月経をめぐる諸課題やウェルビーイングを研究するプロジェクトを実施しています。コンセプトは、Menstrual Wellbeing by/in Social Design、略してMeW(ミュー)です。
MeWプロジェクトでは、《生理用品の無償提供用のディスペンサーがトイレ内にあること》といった小さな工夫をすることで、月経のある人のウェルビーイングがちょっとだけ前進するかもしれないという想いで、ディスペンサー開発に挑戦しました。上記のような状況を受けて、避難所に設置する、また平常時から学校などにも設置することが可能になる条件を、まず洗い出しました。

① トイレの個室内に設置できる大きさで、トイレの多様な壁面に設置できる軽さ。
② 避難所等に備蓄/寄贈される色々なサイズの生理用品を、衛生面も配慮して1枚/1個ずつ引き出せる取り出し口。
③ 生理用ナプキンだけではなく、多様な文化や好みを考慮してタンポン用のディスペンサーも。
④ 防災備蓄品としてストックすることや搬送のしやすさを考えると、フラットになって組み立てが容易。
⑤ 避難所等を閉鎖した際には、廃棄がしやすい。
⑥ 停電に影響されない

備蓄や運搬のしやすいように、最初はフラット

以上の条件を満たすために、まず、材質は薄くて硬めの段ボールが良いだろうということは、早々に決定しました。試行錯誤のプロセスで、苦戦したことの2つを紹介します。
1つ目は、日本で販売されている生理用ナプキンは、驚くほど多様な商品があり、ナプキンが折り畳まれて個包装された状態のものも、縦・横・厚さの大きさが違うことです。大は小を兼ねるで、大き目のナプキンも収納できる底面積が必要な一方、小さなナプキンが後ろに詰まってしまわないように、中箱で傾斜をつけ、取り出し口へとナプキンがスライドするようにしました。また、衛生的であるためにはナプキンを1枚ずつ取れる必要がありますが、取り出し口の高さが大きすぎれば、ドッと落ちてきてしまい、狭すぎると厚めのナプキンが出てきません。なんとか、最大公約的なものを見出したつもりです。

衛生面を考慮して一枚ずつ取り出せるよう工夫

2つの目の難題は、多様な壁への取り付けでした。トイレ個室内は空間的に狭く、十分な大きさの台があることは稀です。一方、壁面は、化粧板、壁紙、コンクリなど、材質が様々です。半恒久的に導入するのであれば、ビス止めをするのが良いのでしょうが、避難所の仮設トイレなど、簡単に設置できて、比較的簡単に除去できることを考えると、壁をなるべく傷つけない方法が必要になります。議論と実験を重ね、①養生テープと特定の両面テープを組合せて壁面に貼る、あるいは、②フックであればトイレ内に残っても邪魔にはならないので、フックに紐で下げられるようする、という2パターンで対応できる形に改良をしました。

トイレ個室内に設置(特定の両面テープで固定)
紐で吊り下げることも可能

大阪大学内での実証研究

2021年9月下旬から、MeWプロジェクトを実施する大阪大学人間科学部棟内のトイレ(個室および共用部)に、このディスペンサーを設置しました。ディスペンサーの状態に加えて、補充のしやすさと生理用品の個数を現在モニタリングしています。加えて、QRコードをつけて携帯電話からアンケートのサイトにアクセスできるようにし、利用者の声を集めています。利用者からは、例えばこんな意見が上がっています。

スマホを用いてモニタリング中
生理用品の補充中

「設置されているだけで生理の辛さを共感してもらっているような、しんどいのは自分だけではないという温かい気持ちになった。また生理はなりたくてなっているわけではないから学校や社会が支援してくれるのはありがたい。」

「トイレットペーパーと同様、必要な人には全員に行き渡るべき衛生用品だと思うので無償で全トイレに設置されてほしい。」

「トイレに生理用ナプキンがあることに『議論』が起こらないくらい当たり前になってほしいです。」

避難所や学校のトイレに生理用品が普通にある社会に、一歩ずつ進むことを願ってMeWプロジェクトではさらに研究を続けていきたいと思います。

MeW Project ウェブサイト
https://mewproject-osaka-u.jp

杉田 映理
杉田 映理
大阪大学 人間科学研究科

主にアフリカをフィールドに、トイレ、手洗い行動、水利用についての研究と、国際協力の後方支援(JICAの衛生分野のアドバイザー等)をしています。最近は、月経問題や学校保健にも関心を寄せています。

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