1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から今年で25年になります。
日本トイレ研究所が災害時のトイレ問題に本格的に取り組む原点となったのが阪神・淡路大震災です。
災害時のトイレ対策をすすめるために、日本トイレ研究所では、必要な最新情報を集約した『災害対策トイレ情報ガイド2019』を発行しました。本書は、地方公共団体の方々がトイレ対策を実施する際に必要な「国における防災トイレ政策」「地方公共団体における防災トイレ対策例」「被災地調査レポート」「災害用トイレ情報」などを集約したものです。
そのなかから、「災害時におけるトイレ対策の基本的考え方」を前・後編の2回に分けてご紹介します。
『災害対策トイレ情報ガイド2019』は無料でダウンロードいただけます。
「災害時における
トイレ対策の基本的考え方」前編
特定非営利活動法人日本トイレ研究所
(『災害対策トイレ情報ガイド2019』より)
1.災害時のトイレ問題
1-1 排泄は待ったなし
水洗トイレは、給電設備、給排水設備、汚水処理設備のすべてが機能してこそ成り立つシステムである。地震や水害などでどれか1つでも機能を喪失すると、水洗トイレは使えなくなってしまう。例えば、排水設備が破損した場合、洗浄水を確保したとしてもトイレから汚水を流すことができない。無理に流すと下階の便器で封水が跳ね出したり、排水があふれる可能性もある。また、停電するだけでも断水する建物は少なくない。
しかし、私たちの排泄は待ったなしである。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の被災者が発災から何時間後にトイレに行きたくなったかというデータがある。発災後6時間以内にトイレに行きたくなった割合は、阪神淡路大震災94.3%、東日本大震災66.7%、熊本地震72.9%であった(図1)。このデータからトイレの緊急度が分かる。水や食料の確保はもちろん重要だが、発災後にどちらが先に必要かと問われれば、トイレと答えざるを得ないのではないだろうか。

1-2 仮設トイレの配備に要する時間
災害時に水洗トイレが使用できなくなったときの対策として、地方自治体は避難所に仮設トイレを設置する。東日本大震災のとき、避難所に仮設トイレが行き渡るのに要した日数に関して、アンケート調査によると3日以内と回答した自治体は34%で、最も日数を要した自治体は65日であった。仮設トイレはトラックで輸送するため、道路の寸断や浸水、交通渋滞などにより、すぐには調達できないことが分かる。

1-3 劣悪な状態となるトイレ
私たちは排泄を我慢できない。災害時は、極度のストレスにより下痢や便秘、おう吐することもある。しかし、そのとき水洗トイレは使えず、仮設トイレもない、というのが実態である。その結果、水を流せない水洗トイレは、あっという間に大小便で満杯になり、劣悪な衛生環境となる。このトイレ問題は、少なくとも阪神淡路大震災から繰り返し起きている。

2.トイレ問題がもたらす関連死
水洗トイレが使用できなくなることで引き起こされるトイレ問題は、大きく分けると2つある。
1つ目は、一人ひとりの健康被害である。トイレに求める快適性や利便性は人それぞれ異なる。トイレ問題が深刻なのは、トイレを安心して使えない、もしくはトイレが使いづらい状況下に置かれると、被災者は出来るだけトイレに行かなくても済むように、意識的にも無意識的にも水分を摂ることを控えてしまう。水分摂取を控え、トイレに行かないことで、脱水症や血圧上昇、膀胱炎、エコノミークラス症候群などで命を落とすこともある。
2つ目は、集団における感染症である。手洗いやトイレ掃除が出来ない状況で、劣悪な衛生状態となったトイレを使用し続けることは胃腸炎等の感染症に罹患するリスクも高まり、集団感染を引き起こすことにもなる。
いずれも、トイレ環境の悪化が引き金となり、健康被害をもたらす(図3)。東日本大震災のときの復興庁のデータによれば、震災関連死に関する原因で最も多いのは「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」である(表1)。この原因に関して、市町村からの報告事例に「断水でトイレを心配し、水分を控えた」という内容がある。安心して使用できるトイレ環境の確保は、関連死を防ぐことにつながると考えている。


(後編は1月16日(木)に掲載予定です)
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