災害時のトイレ

災害時におけるトイレ対策の基本的考え方・後編|切れ目のないトイレ環境の確保

日本トイレ研究所
日本トイレ研究所
Japan Toilet Labo.

2020/01/16

前回に引き続き、『災害対策トイレ情報ガイド2019』より、「災害時におけるトイレ対策の基本的考え方について」後編をお届けします。

災害時におけるトイレ対策の基本的考え方・前編|トイレ問題は待ったなし

本書は、地方公共団体の方々がトイレ対策を実施する際に必要な「国における防災トイレ政策」「地方公共団体における防災トイレ対策例」「被災地調査レポート」「災害用トイレ情報」などを集約したものです。

『災害対策トイレ情報ガイド2019』は無料でダウンロードいただけます。

「災害時におけるトイレ対策の基本的考え方」後編

特定非営利活動法人日本トイレ研究所
(『災害対策トイレ情報ガイド2019』より)

3.災害時におけるトイレ対策の基本的考え方

3-1 トイレ対策の担当部署の明確化

 被災者にとって安心できるトイレ環境を確保するには、それを担う担当部署を明確にする必要がある。上下水道、浄化槽、し尿処理、感染症対策などを担う部署はあるが、被災者視点に立ってトイレ対策を担う総合調整部署である。しかし、これまで多くの市町村では、それが明確ではなかったように感じている。

2016年に内閣府(防災担当)が作成した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、司令塔の必要性について次のように記された。

“市町村内においては、浄化槽・し尿処理担当及び下水道担当等を中心に、防災担当や保健担当等の関係各課で、平時から協力してトイレ対策を検討するとともに、発災時には、「避難者に清潔なトイレ環境を提供すること」を目的とした部局横断的な情報の共有・対応が取れるような体制を確立すべきである”

この課題に対して、2017年3月、徳島県は「災害関連死」ゼロを目的とし、「徳島県災害時快適トイレ計画」を策定した。本計画において特徴的なのは、災害時のトイレに関するさまざまな問題に対して組織的に対応するため、関係部局の役割を明確にするだけでなく、総合調整を行う担当部局を定めるとした点である。また、新潟県は地域防災計画のトイレ対策計画において、市町村地域防災計画で定める事項として「トイレ対策責任部門」と明記している。

災害時は、避難所を中心にして各地域のトイレニーズを素早く適切に把握することが必要である。そして、それらに対応するため全国からの支援を活用することが求められる。日本トイレ研究所は、政府による緊急物資支援のうちトイレ関連物資に関する情報提供に協力しているが、現場ニーズとのマッチングにもどかしさを感じている。最近は、災害用トイレ(詳細は後述)の質が高くなってきていることもあり、被災現場との意思疎通がスムーズになれば、よりよいトイレ環境が構築できる。そういった意味で、日頃からトイレ対策を担う担当部署をぜひ明確にしていただきたい。

3-2 災害用トイレの種類

防災基本計画では「市町村は、避難所における生活環境が常に良好なものであるよう努めるものとする。そのため、食事供与の状況、トイレの設置状況等の把握に努め、必要な対策を講じるものとする」とし、災害用トイレに関しては4種類(「携帯トイレ」「簡易トイレ」「仮設トイレ」「マンホールトイレ」)が記載されている。

災害用トイレの具体的な製品については、当研究所のウェブサイト「災害用トイレガイド」を参考にしていただきたい。(災害用トイレの種類毎の概要と特徴については、下記『災害対策トイレ情報ガイド2019』p.128-129に掲載)

3-3 切れ目のないトイレ環境の確保

時間経過や被災状況に合わせて複数タイプの災害用トイレを組み合わせて使うことでトイレを切れ目なく確保することが必要である(図4)。

図4 切れ目のないトイレ環境の確保

トイレ対応はスピードが肝心であるため、初動対応の流れを整理しておくことが必要である。発災直後は携帯トイレ・簡易トイレを建物内のトイレに取りつけることが必要である。次にマンホールトイレが整備されていれば、それを準備する。そして仮設トイレ等を調達することが望ましい。国土交通省は、男女ともに快適に使用できる仮設トイレを「快適トイレ」と名付け、標準仕様を公表している。日本トイレ研究所はホームページにおいて、快適トイレ認定リストを公開しているので、参考にして頂きたい。

3-4 災害時のトイレの確保・管理計画の必要性

災害時のトイレ対策は、建築・設備・処理・処分・衛生・福祉など、様々な分野や組織が横断的に取り組まなければ成り立たないため、事前の備えと発災時の行動計画が不可欠である。そのため、市町村は、内閣府(防災担当)が推進する「災害時のトイレの確保・管理計画」を作成することが求められている。また、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」では、市町村が確保すべきトイレの数を以下のように示されている。

“市町村は、過去の災害における仮設トイレの設置状況や、国連等における基準を踏まえ、
・災害発生当初は、避難者約50人当たり1基
・その後、避難が長期化する場合には、約20人当たり1基
・トイレの平均的な使用回数は、1日5回 を一つの目安として、備蓄や災害時用トイレの確保計画を作成することが望ましい。


トイレの個数については、施設のトイレの個室(洋式便器で携帯トイレを使用)と災害用トイレを合わせた数として算出する。
また、バリアフリートイレは、上記の個数に含めず、避難者の人数やニーズに合わせて確保することが望ましい。
ただし、これらは目安であり、避難所におけるトイレの個数については、避難者の状況や被害の程度等により必要となる個数が異なる。各避難所では、トイレの待ち時間に留意し、避難者数(男女毎も含む)に見合ったトイレの個数と処理・貯留能力を確保することが重要である。”

市町村は、避難所ごとの被害状況の想定を踏まえ、災害用トイレの組み合わせを検討・選択し、備蓄や流通在庫等を組み合わせて、必要数の確保しなければならない。

当研究所では、2012年より「災害時トイレ衛生管理講習会」を開催し、災害時にも安心して使用できるトイレ環境づくりのできる人材育成に取り組んでいる。
本講習会は基礎編と計画編に分かれており、基礎編では、排泄・衛生、トイレ空間・設備、し尿処理の各分野の基本的内容をつなげて考えることを重視し、災害時のトイレの課題と対応方法・健康管理に関する基礎知識を身につけることを主目的にしている。
また、計画編では、適切な災害用トイレの選定方法、災害時のトイレ初動対応から時間経過に伴う段階的改善方法、災害時のトイレ環境の衛生確保方法、災害時のトイレに関する要配慮者対応方法を学ぶプログラムとしている。「災害時のトイレ確保・管理計画」を作成する際の参考にしていただきたい。

4.被災経験に学び、備えに活かす

災害が起きるたびにトイレ問題は起きているが、その一方で、これまでの経験を踏まえ、トイレに関する国や地方公共団体における政策が増えつつある。詳細は、本誌の「防災トイレ政策」「地方公共団体によるトイレ政策」を参考にして頂きたい。
繰り返しになるが、災害時のトイレ対応は命にかかわることであり、スピードが問われる。そのため、発災してからの対応では間に合わない。このことをご理解いただき、事前の計画づくりと計画的な備え、そして人材育成等に取り組んで頂きたい。

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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