災害時のトイレ

排水設備のトラブル事例と維持管理

日本トイレ研究所
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Japan Toilet Labo.

2023/05/11

日本トイレ研究所ではトイレや排泄に関する「トイレラボ勉強会」を開催しています。
今回は、排水設備のトラブル事例と維持管理について、管清工業株式会社の小林 卓さんにお話いただいた内容を抜粋して紹介します。

排水設備とは排水を敷地外へ衛生的かつ円滑に排除するための設備です。
具体的にはトイレ、キッチンの流し(衛生器具)などから、建物敷地の最終ますまでの設備(下水道が通っていない地域では浄化槽まで)です。もしこれらが正常に機能しないと、汚水のあふれや、漏水など様々なトラブルが発生します。

排水設備の不具合で発生する問題には次のようなものがあります。

 

配管閉塞による汚水あふれ

管の詰まりが発生する原因として特に多いのは、油脂類が付着することで、配管内が狭くなり詰まってしまうものです。油脂は水よりも軽いので、配管の上の方に付着します。

また、近年マンションへの設置が増えてきたキッチンのディスポーザーには、卵の殻や魚の骨、繊維質の多い野菜などが詰まることがあります。固い物だとディスポーザーの刃で砕くことができず、また、重い物は配管の途中で堆積しやすいため詰まりの原因となります。

キッチンの流しの配管閉塞事例(提供:管清工業(株))

 

トイレ配管の尿石付着

トイレの配管が詰まる原因のひとつが尿石の付着です。尿石は長年放っておくと、石のように硬くなり、清掃では取り除けず、配管を交換することになります。早めに清掃をすることが必要です。

トイレ配管に尿石が付着した事例(提供:管清工業(株))

 

排水管の破損が原因で道路陥没も

地中に伸びている排水管のどこかに破損があると、管のなかに土砂が入ってくることで閉塞することがあります。
周囲の土砂が管内に入ってくることによって土中に空洞ができるため、道路の重さに耐え切れず、道路陥没を引き起こし重大な事故につながる可能性もあります。

 

排水設備への異物混入

排水管に異物が入ることによる詰まりもよく発生します。
例えばお掃除シートやボールペン、携帯電話などです。お掃除シートはトイレットペーパーのように水に溶けないため、大量に流すと詰まることがあり注意が必要です。
ボールペンや携帯電話は胸ポケットなどに入れていたものが落ちて詰まることがあります。

また、熱湯などを流すことによる、塩ビ管の変形にも注意が必要です。麺のゆで汁など熱湯を一気に流すと塩ビ管が熱によって変形し、水漏れや詰まりの原因となる可能性があります。水で薄めるなど、冷ましてから流すようにしましょう。

 

配管の劣化による穴あき事例

鉄製の配管は経年劣化によりさびが発生します。さびが出た分、配管は薄くなってしまいます。通常はさびが穴をふさいでいる状態ですが、何かの拍子にさびが取れると、穴が開いて漏水につながります。

20年から30年ほど経った古い鉄製の配管は劣化している可能性があります。建物による差はありますが、目安として20年を超えたら、点検を検討しましょう。

また、配管内に大量のさびがたまることで、詰まることもあります。さびが下流にだんだんと流されて、建物外の汚水ますに、さびが溜まっていることもあります。ますを開けてみて、さびが溜まっていたら、配管の点検を行うことをお勧めします。

キッチンやトイレ等の配管内は、配管を曲げることにより水がたまる排水トラップという構造になっています。
曲がった部分に水(封水)が溜まることで悪臭や害虫が侵入することを防止しています。

排水トラップの模式図(提供:管清工業(株))

空室になっているマンション・アパートなどで、長期間水を流さないと、封水が蒸発して悪臭などの原因になります。長く使わない場合は定期的に水を流す必要があります。

排水管の維持管理

排水管設備の維持管理には、大きく分けて「調査」「清掃」「補修」の3つの方法があります。なかでも「調査」は継続して行うことで、事故の未然防止や、設備の延命化、環境対策につながるため最も重要だと考えています。

調査の方法として最も多いのは映像を撮って確認する「テレビカメラ調査」です。管の口径や構造によってさまざまな機材を使用します。ほかにも染色液を管内に流し込む「染色テスト」や、音波を管内に発信する「音響テスト」では下流が不明な系統の確認ができます。

配管がどれくらい劣化しているかを知るためには、「抜管調査」といって、実際の配管を30cmほど切り取って半分に割り、サビを落としたあとに配管の厚みを測定する調査もあります。実際の厚みを測定することで、配管の耐用年数があと何年かという目安がわかります。

ほかに人間の健康診断のように、X線調査を行うこともあります。X線撮影により、配管の厚みや堆積物が溜まっている箇所や、詰まりが推測できます。配管を傷つけずに行うことができますが、数値などの指標が出ないのでレントゲンフィルムの濃淡で推測することになります。

 

清掃の方法

排水の流れがスムーズでない個所(たるみ・木の根・油などによる詰まりなど)があると、排水中に含まれている固形物や油脂分が沈降・堆積し、閉塞や悪臭、害虫の発生などを引き起こす原因となります。
このような状況を防ぐためには、定期的な排水管の清掃が重要です。

固いものが詰まって、水があふれている場合などに行うのが、ワイヤー清掃です。専用機械でワイヤーを回転させながら、管内に押し込んでいきます。

マンションなどで良く行われるのが高圧洗浄です。高圧水をホース及びノズルに送り込み、噴射して管内の付着物を取り除きます。
ほかに圧縮空気洗浄や、薬品(科学的)洗浄という方法もあります。

 

災害時の不具合事例

災害が起きることで、配管の不具合が発生することもあります。

地震で揺れることで建物内外の配管の破損が発生します。配管の継ぎ目の部分などが割れたり、地盤沈下によって汚水ますに隙間が発生したり、揺れによって大きく配管がずれることもあります。地震後に配管のつまりが発生したら、どこかが破損している可能性が高いと考えられます。

配管の破損、土砂の流入、汚水ますがずれた事例(提供:管清工業)

 

水害の場合は地下駐車場などが浸水することがよくあります。
浸水した場合は、水中ポンプで水をくみ上げたり、吸引車で水を抜いて水位を下げる必要があります。いったん浸水すると、泥の片付けや、電気系統への被害など、復旧のための片付けが大変で、被害も大きくなります。止水板や、土のうを設置することで浸水を防止することが被害を防ぐために有効です。土のうの場合は、平時の収納場所が課題になりますが、最近では、使うときに吸水させるとふくらんで重くなる、吸水土のうも普及してきています。

災害時のトイレの備え

災害時用のトイレを備えておくことが重要です。
災害時のトイレ対策については、日本トイレ研究所災害用トイレガイドで詳細を紹介しています。

(イラスト:日本トイレ研究所作成)

 

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管清工業株式会社
1962年(昭和37年)の創業以来、半世紀にわたり下水道インフラを管理しています。公共事業(下水道)、排水事業(建物内排水設備)、運輸事業(鉄道内排水設備)において、調査、清掃、補修などを実施しています。https://www.kansei-pipe.co.jp/

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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