子どものトイレ

「やったことある!」を生かして、誰もが安心できる「トイレ」へ

相澤仁哉、宮坂隆太
相澤仁哉、宮坂隆太
横浜市立初音が丘小学校

2024/01/11

日本トイレ研究所では、11月10日のいいトイレの日に合わせて「日本トイレ大賞」として、トイレ・排泄に関する社会課題への取り組みを表彰しています。

2023年は、「所沢発!地域活性化につながる新しいスタイルの『公衆トイレ』」と「車椅子インフルエンサー」と「『やったことある!』を生かして、誰もが安心できる『トイレ』へ」の3つの取り組みを表彰しました。今回は「『やったことある!』を生かして、誰もが安心できる『トイレ』へ」をご紹介します。

 

トイレの壁に一人ひとり、ペンキで色を塗っています。

1年3組が利用するトイレは、薄暗く、老朽化も進んでいたため、トイレのイメージは決してよいものではありませんでした。学級には、一人ではトイレを済ませることができない児童もいました。「何とかトイレのイメージを変えることができないか」、そう考えた子どもたちはトイレに絵を描くことを考えました。「友達のため」「これから入学してくる1年生のため」、自分たちの活動の意味に気付いていきます。でも、そう簡単にトイレに絵を描くことなんて、できません。そこには、子どもたちが自ら、主体的に問題解決に取り組む姿がありました。

 

~きっかけ~

きっかけは、怖くて一人でトイレに行けない、行ったとしても扉が閉められない、そんな児童の存在でした。その児童は一体どんな気持ちなのだろう、学級全体で話し合う中で、トイレのイメージを変える方法はないのかを考えました。そこで想起されたのが幼稚園での経験です。学級の半数を占める児童が、本校に隣接する初音丘幼稚園の卒園生です。初音丘幼稚園では、卒園前に、壁に園生活の思い出の絵を描く経験をしています。こうして、トイレに絵を描くという壮大な活動が生まれました。

~活動のスタート~

まず、許可をもらおうと考えた子どもたち。校長先生、副校長先生はもちろん、トイレをきれいにしてくれている学校用務員にも許可をもらうことを考えました。学校用務員からは、実際に絵を描くのであれば、解決すべき4つのポイントがあることを教えてもらいました。

①自分を守るためにどんな準備をするのか

②トイレのどこに絵を描こうとしているのか

③どんな色でどんな絵を描こうとしているのか

④学校が汚れないようにどんな準備をするのか

①~④について、学校用務員に納得してもらえるよう、話し合いを重ねました。中でも時間をかけたのは、③のデザインについてです。みんなで、「だれもが安心して落ち着くトイレ」を目指して、どんな絵を描いたらよいか、考えを出し合いました。子どもたちが導き出したのは、1年生の学習とつながる絵、学校と、学校の入口にある桜の絵を軸として描くということでした。決まったデザイン案を基に、校長先生、副校長先生、学校用務員にプレゼンし、ついに許可を得ることができました。

~ついに完成~

重ね塗りをするには乾いてからではないといけないことを知り、3回に分けて色塗りを実施しました。扉ごとに分担をし、保護者の方の協力も得ながら作業を進めました。完成を校長先生に報告する際には、「夢が叶った。」などと話しながら、喜びに満たされた表情を、多くの児童が見せていました。

 

以下は、児童の振り返りです。

〇最初は本当にこんなことできるのかなって思ってたけど、できてすごくよかったよ。たくさんの人が協力してくれてこんなことができた。

〇1組と2組にトイレを見せれたのも嬉しいし、Hさんがトイレのドアを閉めれるようになったのが いちばん嬉しかった。自分もトイレを使えて嬉しかった。夢が叶った。嬉しいこといっぱい!!力を、息を合わせて、協力が生まれたんだと思います。

みんな(子ども)の力でできることがあるし、みんな(子ども)だけでできないときもあるから、一人でやめようとしない。真剣に、そこで立ち止まらない。止まったらそこで終わり。筆を止めない。みんなのおかげでここまでこれたし、完成できたからハッピー。完成できたから嬉しいし、楽しい。

~保護者の方の声~

〇学校用務員さんを尊敬し、「師匠」と呼び、一緒に作業することへの喜びを口にするようになりました。たくさんの大人や、クラスの友達と話し合いを重ねることで、自然と他人の意見をまっすぐ受け入れられる心が成長しました。ペンキで汚れた小さな手や洋服を誇らしげに見せてきた笑顔は、親としてもとても嬉しく、絵を描く際に使用した筆は、子どもの宝箱に今も大切にしまってあります。

〇「トイレに一人で行けない」は、うちの子のことでしたが、クラスみんなが真剣に考え、動いてくれたことがとても嬉しかったです。トイレアートが完成した後、「今日トイレに一人で行けたよ!」と自信に満ちた声で話し、今では一人でトイレに行くのが当たり前に変わりました。トイレが「怖い場所」から「みんなで作った大事な場所」に変わり、今度は妹がそのトイレを使うのを楽しみにしています。

相澤仁哉、宮坂隆太
相澤仁哉、宮坂隆太
横浜市立初音が丘小学校

日本トイレ大賞2023受賞

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