被災者支援に必要な“多様性の視点”
災害は、誰にでも平等に襲い掛かるわけではありません。普段から、社会的に不利な状況に置かれている人や地域は、より大きく災害の被害を受けたり、復興においても多くの困難を伴う傾向があります。
たとえば、体が不自由な高齢者や障害者、乳幼児のいる家庭は、緊急に安全な場所への避難が必要になった場合により多くの時間が必要ですし、支援の手がなければ避難が難しい場合もあるでしょう。避難所に避難した場合でも、建物に段差があったり、授乳やおむつ替えなどが気軽にできるスペースがなければ、生活に困難をきたすことになります。
また、女性特有の困難もあります。生理やオリモノなどに衛生的に対応するために、生理用品や清潔な下着が不可欠ですし、停電や集団生活を余儀なくされる中でプライバシーや安全を守りにくい状況も発生し得ることから、防犯対策も重要となります。加えて、女性は家事・育児・介護などの家族のケア役割を主に担っている場合も少なくないため、災害時にはその負担が増大し、疲弊する傾向にあります。
そのため、高齢者や障害者、子どもたちの支援を充実させるには、女性たちの声をしっかり聞いて対応すること、女性たち自身の心身の健康が悪化しないようサポートしていくことが不可欠となるのです。
ところが残念なことに、現状では災害対策や被災者支援の内容を決める場(自治体の防災会議、避難所運営組織、災害対策本部など)は男性が中心で、女性の意見が反映されにくい傾向にあります。阪神・淡路大震災以降も、高齢者を中心に避難生活中に体調を崩し、災害関連死と認定される人が後を絶ちませんが、衛生・栄養・育児・介護などの面で細かい環境配慮や支援が行き届かないことも、要因となっているように感じます。
以上から、被災者支援の質の向上と、意思決定の場における女性の参画を増やすことは、切り離せない問題なのです。もちろん、高齢者・障害者やその支援者などが、当事者の視点を持って参画することも重要です。つまり多様性の視点です。
なお、内閣府男女共同参画局が策定した「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」に盛り込まれた避難所チェックシートの運営体制にも、表1の通り、多様性の視点が盛り込まれており、今後の現場へのさらなる浸透が課題となっています。そしてこれは、トイレ環境の整備においても同様で、当事者の意見・参加は不可欠となります。
災害時のトイレ問題と国際基準
災害でトイレが使えなくなると、すぐに困るのは女性たちです。プライバシーや安全性が保てない状況で用を足すことは難しい上に、衛生を保ちにくいと、外陰炎、膣炎、膀胱炎などの病気になってしまう場合もあります。仮設トイレが届いたとしても、男女別になっておらず照明が不充分な場合、出入りや音が気になりますし、犯罪のリスクも生じます。女性の方が用をたすのに時間がかかりますので、女性用トイレが少ないと混雑してしまいます。
また、仮設トイレは和式であることも多く、段差がある、手すりが無い、といった状況で、足腰が不自由な高齢者や障害者の方の利用には向かない場合が少なくありません。
こうした環境だと、女性や高齢者などはトイレに行く回数を減らそうとして、水を飲む量や食べる量を控えようとし始めます。そして、水分を十分とらないことで血中濃度が高まると、いわゆる血液ドロドロの状態となり、血栓(血の塊)ができやすくなり、それが原因となって肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)や脳梗塞を引き起こす場合があるのです。
このように、災害時のトイレ環境は、被災者の命・健康・人権の問題に直結するため、多様性の視点が極めて重要となるのです。
そのため、国連機関や専門的な国際協力が作成している人道支援の国際基準では、表2のように被災者の数や状態に対するトイレの個数、男女比の目安が提示されているほか、女性、子供、高齢者、障害者などの立場別に配慮すべき項目が整理されています。
(第2回に続きます)
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