災害時のトイレ

女性・子ども・高齢者等に配慮した災害時のトイレ|第2回 災害時のトイレ環境の具体的な改善のために

浅野 幸子
浅野 幸子
減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表

2021/03/18

要配慮者のトイレ利用の実際

平常時から、トイレ利用に配慮が必要な人たちがいますが、国土交通省による『多様な利用者に配慮したトイレの整備方策に関する調査研究報告書』(平成23年)は、災害時のトイレの配慮にも多くの示唆を与えてくれます。調査の対象は、75歳以上の高齢者、身体障害者、肢体不自由者、視覚障害者、ぼうこう・直腸障害者(内部障害者)、5歳以下の子どもで、介助者がいる場合や親子でのトイレ利用も含めて詳しく分析しています。

図1は、障害の種類(肢体不自由者・内部障害者)と年齢別に、その割合を示したものですが、高齢になるほど障害を持つ人が増えることから、特にトイレ利用については、高齢者と障害者を分けて考えるのではなく、身体機能のどういった部分で不便さやニーズ(介助者のためのスペースも含む)を抱えているのかといった観点から同じように見ていくとわかりやすいでしょう。ちなみに、癌や事故などにより消化管や尿管が損なわれたことで内部障害者となり、腹部などに排泄のための開口部(ストーマ(人工肛門・人工膀胱))を造設した人をオストメイトと呼びます。

図1 高齢者、障害者、子どもの数および人口に対する割合
(出典:国土交通省『多様な利用者に配慮したトイレの設備方策に関する調査研究報告書』)

そして図2は、車いすの人、オストメイトの人、親子での利用の場合に、どのぐらいの利用時間であるかを示したグラフですが、こうしたデータは、災害時のトイレ整備を考える上でもとても重要といえます。ただし、このグラフは通常時で、予期せぬ事態が発生した場合や、水が出ないような災害時の環境であれば、さらに時間がかかるであろうことは言うまでもありません。

図2 トイレの所要時間(通常)
(出典:国土交通省『多様な利用者に配慮したトイレの設備方策に関する調査研究報告書』)

女性・子ども・障害の状態別への具体的な配慮

以上を踏まえ、平成28年に内閣府が策定した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」などを基に、女性、子ども、高齢者等に配慮した災害時のトイレのあり方について見ていきます。

まず、全般として、衛生や快適性は大前提ですが、安全性の視点もすべての人にとって不可欠です。暗がりにならない場所に設置する、夜間照明を個室内・トイレまでの経路に設置する、個室は施錠可能なものとする、防犯ブザー等を設置する、手すりを設置する、といった対策が求められます。

女性(性別)に関しては、トイレは必ず男性用・女性用に分ける、生理用品の処分のためのゴミ箱を用意する、鏡や荷物を置くための棚やフックを設置する、トイレの使用待ちの行列のための目隠しを設置する、といった配慮が必要なほか、前回の国際基準でも示されたように、女性のトイレを男性よりも多く設置することも大切です。

生理用品やオリモノ用シートも、はじめからトイレの中に置いておけば、他人の目を気にせずに入手できます。また、男性でも、尿取りパッドなどが必要な人もいますので、同様に配置しておくと良いでしょう。

さらに、たとえば女性が男性を、男性が女性をトイレ介助する場合や、性的マイノリティの方がトイレを使用する場合、男性用・女性用しかないと困ることになります。そのため、男女兼用のトイレ、介助者がいる場合でも使える多目的トイレも必ず用意する必要があります。

ちなみに写真(下)は、熊本地震の際のある避難所の女性トイレの洗面台の様子です。衛生用品とともに、意見箱が置かれていますが、これは、熊本市男女共同参画センターが、被災者が人前で相談しにくいことを書いてもらうことで、避難所の環境改善や支援につなげようと配置したものです。そもそも、公共施設のトイレには、DVや性暴力被害の相談窓口を記載したカードが置かれているケースも多いのです。

そのため、プライベートな空間を保ちやすいトイレは、このように、人前で相談しにくいことや、相談情報などを伝達する場としても積極的に活用していくとよいでしょう

熊本地震の際の、ある避難所のトイレの洗面台
(写真提供:熊本市男女共同参画センター はあもにい)

お子さんが一人で利用したり、乳幼児を連れて親子で利用する場合もあります。子どもがケガをしたり性被害に遭ったりしないよう、安全対策を行うこと大前提ですが、加えて、親子で利用できるトイレの設置、おむつ替えスペースの設置のほか、子ども用の補助便座も用意しましょう。

次に、高齢者もふくめて、障害の状態別の配慮については、洋式便器を確保する、使勝手のよい場所に設置する、トイレまでの動線を確保する、段差を解消する、介護者も入れるトイレを確保する、といった対応が求められます。

内部障害者で人工肛門・人工膀胱を保有しているオストメイトの人が、装具を交換できるスペースを用意する必要もあります。

なお、日本語に不慣れな外国人の方もいますので、外国語の掲示物を用意する(トイレの使い方、手洗い方法、消毒の方法等)ことも大切です。併せて、やさしい日本語やふりがなを活用することも考えましょう。そうすれば、子どもや高齢者・障害者の方でも助かる人がいるはずです。

以上から、災害時のトイレ環境の配慮は、実は、平常時にも求められることばかりだということがご理解いただけるのではないでしょうか?
平常時のトイレ環境の改善と災害対応を同じ地平で考えることで、安全・安心なトイレ環境を実現していくことが求められていると言えるでしょう。

第1回の記事はこちら

 

浅野 幸子
浅野 幸子
減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表

阪神・淡路大震災に際して学生ボランティアから国際協力NGOの現地事務所スタッフとなり、4年間支援活動を行う。その後、市民団体で働きながら夜間大学院に進学(政策科学修士)。主な専門分野は地域防災、災害とジェンダーで、各地で、防災講演・講座・研修
を行う。内閣府の「避難所運営ガイドライン」(2016)の策定委員等も務める。

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