令和2年7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、各地で大雨となり人的被害や物的被害が発生しました。特に九州では4日から7日は記録的な大雨となり、熊本県人吉市に流れる球磨川が氾濫し、広い範囲で浸水しました。人吉市内には15か所の避難所が開設されました。
今回は市役所に隣接する最大の避難所でもある人吉スポーツパレスの森 英和 館長に当時の状況について、お話を伺いました。コロナ禍においては、令和2年7月豪雨が初めての大きな災害でした。人吉スポーツパレスでは、泥を避難スペースに持ち込まないように徹底するなど衛生対策を実施し、感染制御を実現しました。これから出水期に入るので、水害時における避難所運営についても参考になると思います。
避難所のキャパシティーを超えていた
2020年7月4日の未明から、豪雨の影響により河川が増水し、地域の人はずぶ濡れになりながら着の身着のまま避難してきました。人吉スポーツパレスもあと5~10㎝で床上浸水という状況で、職員が駐車場に停めていた車は水没していました。
発災当日は、事前に避難していた人も含めて700~800人の市民が人吉スポーツパレスへ避難してきました。施設内は超満員となり、通路にマットを敷いて避難者は横になっていました。その状況は、1週間から10日間ほど続きました。
水洗トイレは使えていた
発災直後は多くの市民が人吉スポーツパレスへ避難してきましたが、施設内の水洗トイレは使用できました。すぐに災害用マンホールトイレを設置したものの、施設内のトイレ数が多く、トイレが足りない印象はありませんでした。
トイレの維持管理は、シルバー人材センターが担当してくれました。他の避難所は、避難者で自治組織をつくりグループ分けをし、交代制で掃除を行っていたと聞きましたので、スポーツパレスの避難者は負担が少なかったと思います。
泥で汚れた衣類でトイレが詰まる
水害の影響で避難者は泥だらけの状態でした。その状態でトイレに入り、汚れた靴下や下着、オムツなどをトイレに流してしまう人が多く、それらが敷地内の汚水槽で詰まってしまいました。そのため、一部のトイレが水を流せなくなり、利用を停止し業者に対応してもらうことがありました。発災当初の混乱の中では、泥で汚れた衣類等の対応まで手が回りませんでしたが、水害時は、トイレの近くに汚れた衣服を入れられる大きめのごみ箱を準備する必要性を感じました。
避難スペースに泥を持ち込まない
水害時は、足元が泥だらけになってしまいます。泥を避難スペースに持ち込まないようにするため、避難所の入り口には足洗い場が必要であると感じました。そこで、すぐに仮設の足洗い場を入り口に設置しました。人吉スポーツパレスには、散水施設がいたるところにあったので最初はホースを活用した洗い場を設け、次は仮設工事で蛇口を増やし、ブラシと洗剤も用意しました。
最初の1か月は施設の入口は泥だらけの状態でした。避難者は、日中は自宅の片づけに行き、泥だらけで避難所へ帰ってきます。泥が衣服に付いた状態で避難スペースに入ると、泥が持ち込まれ、さらに乾燥すると舞い上がってしまいます。泥には何が含まれているか分からないため、衛生対策を実施する上で泥の対策は不可欠でした。
新型コロナウイルス感染症対策
避難所の出入り口に手洗い・足洗い場を設けることにより、避難スペースに汚れなどを持ち込まないことを徹底し、衛生面の確保に努めました。加えて、発熱者等については小体育館を隔離用に準備していました。幸いにも新型コロナウイルスの影響で、避難者の手指衛生に対する意識が高かったこともあり、大きな病気や感染症は出ませんでした。
迅速な支援
発災当初はベッドの代わりとして柔道用の畳を家族ごとに並べてスペースを作り、卓球のフェンスで仕切りました。その後、高速道路の被害が少なかったこともあり、ダンボールベッドはすぐに届き、自衛隊が組み上げてくれました。パーティションは1か月ほどで届きました。その他の支援は以下の通りです。
・洗濯乾燥機も10台ほど準備し、加えて一時的に移動式ランドリー車の支援もあったので、避難者は避難所閉鎖までの半年間、無料で洗濯乾燥機を使うことができた
・エアコンは国の支援で全避難所に設置された
・シャワーは体育館のものが使えたが、お風呂は自衛隊からの支援を受け、自衛隊が引き上げた後は市がマイクロバスを手配し、温泉まで送迎を行った
いかに支援を届けるか
在宅避難の方には、支援が届き難いという課題もありました。スポーツパレスにある物資は、避難所にいる人たちのための準備したものでしたが、最初のうちは取りに来た人にも配りました。
市にも支援物資が届きましたが、置き場を確保することができず、途中で止むを得ず受け入れをストップしました。市内のボランティアの人たちが、私的に支援物資を受付して、お寺などで配っていましたが、そのような情報はSNSなどネットを介して拡散されることが多く、ネットに疎い高齢者が取り残されてしまうことがありました。
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