災害リスクを確実に理解する
共助を育むためには3つのツボが必要であると考えています。一つ目のツボは、災害リスクを確実に理解することです。自然災害リスクは「客観的に与えられるものではなく、主観的に作り出すもの」です。例えば、行政からハザードマップを渡されたときに、その情報のみを認識するのではなく、自分たちで咀嚼して再解釈することにより、当面の受容リスクを自分たちで設定する必要があります。どのようなリスクに囲まれているかを自覚することが重要です。
自助・共助・公助のあるべき姿を共有する
二つ目のツボは、「自助・共助・公助のあるべき姿の共有+建設的な議論の場の創出」です。
防災を語るうえで「自助・共助・公助」は重要で、よく出てくる言葉ではありますが、実態を見てみると、自助は不十分であり、共助は一部の人が懸命に取り組み、公助は言い訳している状況です。
「自助・共助・公助」のあるべき姿に、必要な条件が二つあります。一つは、その地域で起こりえる被災状況について皆が理解していることです。二つ目は、それぞれ何をどこまでやってくれるか互いに理解しあっていることです。二つの条件が揃うと、自助・共助側は足りない部分がはっきり見えてきます。その結果、自律的に対策を推進していこうという気持ちになり、持続する自助・共助・公助が実現します。このような状況認識に立つと足りない部分がみえるので、誰かにやらされるのではなく、自分たちでやるべきだという「内発性」が生まれます。さらに課題の全体像が見えるので、その課題を少しずつでも減らしていこうと、やりながら活動内容を発展させていく「自立発展性」が芽生えていきます。この「内発性」と「自立発展性」の重要を認識することに加え、建設的な議論の場を作り出していくことが重要です。自助と共助と公助を足しても対応できない部分があるということを全ての主体が理解したうえで、足りない部分を中長期的にどうしていこうかと前向きに議論していく場、雰囲気をつくっていくことが重要です。
地域に埋め込むべきキーワード
三つ目のツボは、「地域社会に埋め込むべきキーワードと必要とされるアプローチ」です。
「内発性」と「自立発展性」に加え、防災だけでなく、総合的地域課題を考える「総合性」を地域社会に埋め込むことが重要です。そのためには、市民先行・行政後追いの形が必須となります。走っている市民を行政が追いかけて、必要とされる支援を柔軟に考えて支援していく、このスタイルをとると、市民の力が膨らんでいきます。「多様性」と「緩やかな連携」も重要です。活動主体・内容の多様性と様々な地域組織の緩やかな連携が結果として、地域社会に埋め込むべき、「総合性」、「内発性」、「自立発展性」を膨らませます。
具体的に進めようとしたときに、「ブリコラージュ」と「防災【も】まちづくり」というキーワードが重要になります。ものづくりの2種類の方法として、「ブリコラージュ」と「エンジニアリング」が挙げられます。「ブリコラージュ」は、その場にあるもので作るという方法で、「エンジニアリング」は設計図を描いて作るという方法です。地域防災を進めていくときには、「ブリコラージュ」が適しています。その地域にある資源を上手に組み合わせて、その地域にあった方法で地区防災計画に取り組む方法が主軸となります。他の地域の事例など触れるとさらにいいです。
防災もまちづくり
防災「だけ」で、地域づくり、都市づくり、街づくりが進んだ事例はないと考えています。常に防災を進める上で、他の目的と抱き合わせになっているということを意識することが重要です。
徳島県美波町伊座利集落は陸の孤島的漁村集落で、「たかが100人されど100人、何もないけど何かある」をキャッチフレーズに「防災【も】まちづくり」に取り組みました。伊座利集落は、南海トラフ地震がくると、可住地域のほぼすべてが浸水してしまいます。そこで、住民自ら行政の力を借りずに「事前復旧アクションプラン」を作成しました。住民は、南海トラフの巨大地震による津波よりも過疎化によって集落が自然消滅するほうが怖いと言っていました。このような地域では、防災だけ進めていても意味がなく、防災とあわせて集落の持続性も向上させる必要があります。集落の持続性を高めることが災害時の備えにつながります。
需要のダイエット
地域社会が目指すべき目標は「災害時自立生活圏」です。トイレの問題もこの中に含まれています。「災害時自立生活圏」とは、圏域外の資源に頼らなくても、災害を乗り越えることを目指そうとする圏域のことです。キーワードは「省・需要(需要のダイエット)」、「持ち寄りの共助」、「安全のお裾分け」の三つです。防災の根幹問題は、桁外れに大きい需要に対し桁外れに小さい資源しかないということです。是正するために、資源を増やし、需要を減らし、バランスを整えることにより、災害を乗り越えることができると考えられます。
ところが、現状は需要がどんどん膨らんでいく一方であり、資源は公共施設に限定しているので、限られています。需要に関しては、災害を経験していくたびに高度化していきます。見落としていた需要を丁寧に掘り起こすことで、不要不急の需要もついてきてきます。結果として、さらに需要が膨らみ、バランスが取れなくなってしまいます。対処として、資源を膨らませ、膨らむ需要を劇的に減らすことをやっていくことが必要です。需要に関しては、不要不況の需要を増やさないように、需要のダイエットをする必要があります。そのためには、自分でできる人の自助を増強し、支援の対象を社会的弱者に絞ることが求められます。需要のダイエットはしぼりすぎはよくなく、目指すべき水準をそれぞれの地域で設定していくことが必要です。そのためには、議論が必要で、精神的・肉体的に健康を維持できている状態が目指すべき水準であると考えます。最低限の衣食住とトイレと衛生環境と簡易の医療サービス、これは最低限必要であり、それぞれのレベルについても議論していくことが社会的に求められます。
資源を膨らませる
資源を膨らませる方法は4本立てです。これを考える上では、公共施設を使うという既成概念、既定のリソースだけの利用から脱却する必要があります。
一つ目は、「災害時遊休施設」と呼べるような民間施設をもっと積極的に活用することです。「災害時遊休施設」とは、災害時に本来目的で利用する必要ない施設、空間を指します。代表的なものとしてパチンコ屋が挙げられます。パチンコ屋は、早期に営業を再開すると顰蹙を買うことが考えられますので、適切なBCPはしばらく休み、休んでいる間に社会貢献をしてもらうのがいいと考えています。名古屋市のケーススタディでは、店舗がまんべんなく地域をカーバーしていることに加え、大型の駐車場もあり、利用者も高齢化しているので高齢者向けのサービスも充実していました。車中泊場をつくることを想定すると、名古屋市が準備した避難所の定員の3割ほどを収容が可能になります。
二つ目は、自然環境の活用です。人工物は災害が起きると機能が低下しますが、自然環境系の要素は、災害時に機能ダウンしないので、相対的に災害時は使える資源になります。そういう意味でオープンスペース系をグリーンインフラとして位置づけて、積極的に活用していくことが有効です。
三つ目は、「安全のお裾分け」機能の強化です。例えば、大規模水害の危険にさらされている葛飾区では、浸水対応型拠点建築物・街区をつくる動きがあります。仮に浸水したとしても、自立的なライフラインがあり、浸水しない街区を積極的に作っていくことにより、周辺の人に対し、生活支援や避難場所を提供することが可能になります。また、再開発の際に、周辺に安全のお裾分けをできるような機能を再開発ビルに作りこんでいく取り組みもあり、このような機能を町の中に作っていくことで、災害時自立生活圏を構築していきます。
四つ目は、「持ち寄りの共助」です。地域の中には様々な資源が存在します。それぞれは散在しているので、単独では役に立ちませんが、上手に持ち寄ることで有効に活用できることがあります。地域の中に散在している資源を持ち寄れるようなコーディネート機能が地域に必要であり、これは共助の大きな役割であると考えています。
災害自立生活圏を全国のすべての地域が目指したとするならば、だいぶ需要と資源のバランスをとることができます。その結果、公的な資源を本当に必要とするところに配分することができます。これが、日本全体が目指すべき目指す姿であり、個々の地域が災害時自立生活圏を目指すことは、非常に高い公共性があると考えています。
※以上の内容は、2021年11月16日に開催した「防災トイレフォーラム2021-トイレから考える自助・共助・公助の連携-」で、ご講演いただいたものです。
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