日本トイレ研究所は、熊本地震(2016年)で被害を受けたマンションの居住者である奥田俊夫さん(当時の管理組合理事長)と高濱義夫さん(当時および現在の副理事長)に、発災当初の住民の動きやトイレ対応についてお話を伺いました。
マンション概要
築年数:28年(震災時)
構 造:SRC/鉄骨鉄筋コンクリート12階建
居住者:40世帯(震災時97名 現在は92名)
トイレがあるところに人は集まる
4月14日の前震の際は大丈夫だったのですが、4月16日、夜中の1時25分に本震が発生し、すぐに停電になりました。不安になって多くの住民がマンションの外に飛び出してきました。外に出た後は、1階の駐車場などに避難する人や避難所に行った人、車中泊避難を実施するもいました。余震が続き、上階は揺れが大きく、エレベーターが止まっていたため、上階に戻れない人のために1階の集会室を開放しました。
大まかにいうと、すぐに自宅に戻った人は3割、落ち着いてから自宅に戻った人3割、夜が明けて明るくなってから戻った人2割、避難所に移動したり車中避難したりしている人2割ぐらいだと感じています。
また、10人くらいの高齢者は、上階の自宅に戻れず、車での移動もできない状態でしたので、急遽カセットコンロ等を持ち寄り、集会室で炊き出しを行いました。
ちなみに、復旧に要した時間は、電気2時間、ガス5日間、水道6日間、エレベーター1週間でした。
熊本地震では、車中避難が長く続き、公園や学校のグラウンドには車がずっと停まっていました。スーパーの駐車場も避難所になっていました。いずれの場所にもトイレがありました。自分たちのマンションでも、1階の集会所にトイレがあったため生活を継続することができました。人はトイレのあるところに避難します。一方で戸建てやマンションで共用トイレがないところは、トイレに困ったと聞きました。
発災直後、駐車場で避難している様子(奥田さん、高濱さん提供)
トイレを使うには洗浄水の確保が課題
トイレの使用について、最初の2日間は高置水槽が機能していたため水を使うことができました。排水には問題がなかったので、水があればトイレは使える状況でした。住民には掲示板への張り紙などで節水を呼び掛けていましたが、3日目になると高置水槽の水が空になって断水となりました。断水中は、ボランティアが水を持ってきてくれたり、近隣の井戸水や農業用水を活用したり、雨水を溜めるなどして水を確保しました。日頃から水を確保できる場所を把握しておくことはとても大切です。なお、今回は台車にポリバケツを載せて水を運びましたが、たくさんの水を運ぶには工夫が必要だということを学びました。
エレベーターの復旧までには1週間ほど期間を要したため、洗浄水を各住戸に運ぶことができないので、マンションに留まっている人は、1階ロビー(集会場)のトイレを使いました。バケツに水を入れてトイレを流すこととし、住民は問題なく実施できていました。
トイレの洗浄水確保のためにバケツに雨水を溜めた(奥田さん、高濱さん提供)
台車で洗浄水を運んだ(奥田さん、高濱さん提供)
トイレは待ったなし
災害時の備えとしてトイレのことは、あまり考えられていないように感じています。どちらかというと食事をどうするか考えているイメージがありますが、一番重要なのはトイレで、マンションなどで一緒に生きていくための基本です。食べ物はある程度我慢できますが、トイレはそういうわけにはいきません。
今回の経験を通じて、共用トイレが大事であることを再認識しました。また、高齢者などの中には自分でトイレ対応を出来ない人もいます。そこも含めて管理組合としていかに手当てするかは事前に考えておく必要があります。
今回の地震を機に何に困るか把握することができ、水の確保方法や携帯トイレなど、地震後に必要な対応について把握することができましたので、次の備えにつなぎたいと考えています。
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