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日本のトイレが世界一危険な理由とは?

日本トイレ研究所
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Japan Toilet Labo.

2023/08/02

日本トイレ研究所ではトイレや排泄に関する「トイレラボ勉強会」を開催しています。
今回は、『日本のトイレが世界一危険な理由とは?~犯罪機会論から公共トイレを考える~』と題して、立正大学文学部社会学科の小宮信夫教授に講演いただいた内容を抜粋して紹介します。

小宮信夫教授(立正大学文学部社会学科)

 

犯罪の機会をできる限り減らすのが犯罪機会論

防犯についての注意喚起をするとき、よく「不審者に気をつけましょう」といいますが、不審者らしく見える人が犯罪を犯すわけではありません。また、防犯ブザーや防犯カメラは、犯罪が起こってしまった後の対処であり、犯罪の発生そのものを防いでいるわけではありません。
日本では、犯人の人格や動機に注目する「犯罪原因論」(犯行の動機をなくそうとする立場)に基づいて考えがちですが、それでは犯罪を防ぐことはできません。

犯罪が起こるときは、犯人の「動機」があってそれが「犯罪」に至ると考えがちですが、実はその間に、犯罪を実行に移す「機会=チャンス」があります。犯罪は「機会」がなければ発生しません。犯罪を実行しやすい機会をできる限り減らしていく考え方を「犯罪機会論」といいます。

つまり犯罪機会論とは、犯罪をしようとしている人が、犯罪を諦めるような環境を作りましょうということです。

犯罪を実行しやすいのは「入りやすく、見えにくい」環境や場所です。
例えば「入りやすい」というのは、門が空いている、ガードレールがない、フェンスがないといった場所です。一方で「見えにくい」というのは、塀があったり、周囲に窓がなく、住民から見えにくいことが該当します。さらに、落書きやごみが放置されている場所も、住民の無関心さを表しており、管理されていない場所という印象を与えるため、心理的に見えにくい(見られていない)場所となります。

 

フェンスは内側の人を守るためのもの

フェンスは、日本では内側の人を閉じ込めるものというイメージが強いと思います。
しかし城壁都市によって外敵を防いできた歴史のある海外では、フェンスは内側の人を守るためのものと考えられています。
海外の公園では、子どもの遊具エリアをフェンスで囲み、大人の行き来するエリアと分けるゾーニングをしています。子どもに近づこうとする大人がいれば目立つため、周囲の人から気付かれやすくなります。

子ども向けに「入りやすい」「見えにくい」場所を解説した小宮信夫教授の動画
https://www.youtube.com/watch?v=kP-AwYApHE4

 

トイレでも「入りやすい」と「見えにくい」を回避する

海外ではトイレも犯罪機会論に基づいて設計されています。

トイレで発生する犯罪として多いものは、後ろからついてきた人に個室に連れ込まれるというものです。トイレでも「入りやすい」と「見えにくい」を回避することと、男性と女性の動線を分けるゾーニングが大切です。

「入りやすい」を回避するには、まず男女の入口を明確に分ける必要があります。
海外では、例えば屋外の公共トイレなどでは、基本的に男女の入口が離れた場所にあります。建物の反対側に入口を設けることが多くあります。
大きな駅や空港のトイレでは、トイレの場所そのものを別の場所に設置することもあります。

商業施設などで、同じ通路を通ってトイレに入る構造の場合は、奥が女性用、手前が男性用です。
奥が女性用だと、後ろから付いてくる男性がいると違和感に気付き警戒することができます。反対に、手前を女性用にしてしまうと、男性が後ろから付いてきても違和感がないため、犯罪の機会が発生しやすいといえます。

バリアフリートイレについても、海外では男性と女性が別になっている場合が多いのです。
性別に関係なく入れるトイレを作るとしたら、男性用・女性用それぞれのトイレにプラスして設置するのが良いのではないでしょうか。

「見えにくい」を回避するためには、通行人や従業員、改札やレジなど人から見える場所にトイレを設置することが考えられます。

一方でトイレのそばに人が集まるようにすればいいかというと、必ずしもそうではありません。

ショッピングセンターなどではトイレのそばにベンチや自販機などを置いた休憩スペースがよく設置されています。実はこれが好ましくありません。
犯罪を考えている人物がターゲットを物色するために長時間滞在していても違和感を持たれにくいためです。多くの人が通るため見えやすいのではないかと思いがちですが、トイレは同じ人が何度も通るわけではないため、長時間滞在している人物がいても気づきにくいのです。

 

犯罪機会論を社会実装しよう

犯罪機会論に基づいて計画しても100%安全ということはありませんが、少しでも犯罪を起こりにくくするための環境を作るのが犯罪機会論という考え方です。

犯罪機会論は1970年代から研究が盛んになってきました。様々な事例を分析して、共通点を導きだした結果、「入りやすい」「見えにくい」場所で犯罪が起こりやすいことがすでに分かっています。いまは社会実装をしていくタイミングに入っています。
日本でも犯罪機会論に基づいた防犯対策や、まちづくりが進むことを望みます。

(文責:日本トイレ研究所)

 

犯罪機会論の視点で世界遺産、住宅や道路、学校や公園、駅やトイレなどを調査した小宮教授の著書
『写真でわかる世界の防犯 遺跡・デザイン・まちづくり』
https://www.shogakukan.co.jp/books/09840178

 

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小宮信夫さん(立正大学文学部社会学科教授)
専門は犯罪学。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。本田技研工業情報システム部、ライフデザイン研究所、国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省人権擁護局、法務省法務総合研究所などを経て現職。著書に、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)、『なぜ「あの場所」は犯罪を引き寄せるのか』(青春新書)、『犯罪は予測できる』(新潮新書)など。
http://www.nobuokomiya.com/

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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