そのほか

トイレと排泄事情~妊娠出産を経験して~

兒玉 美冬
兒玉 美冬
日本トイレ研究所個人会員

2020/09/24

はじめに

私事だが、2017年12月に第1子となる男の子を出産した。今まで“お腹緩い系女子”としてトイレを見てきた私であったが、妊娠出産という新たな視点でトイレや排泄について考えることができたので、今回寄稿するに至った。100人いれば100通りの妊娠出産がある。このような経験をする人もいるのだなと思って読んでいただければ幸いである。

〈妊娠期〉便秘と頻尿

一般的に、妊娠中はホルモンバランスの影響や、大きくなる子宮に圧迫されることにより便秘や頻尿になりやすいという。妊婦教室で出会った多くの女性が妊娠初期からの悩みとして便秘を語っていた。幸い私は“緩い系女子”であったのでちょうど快便になり、悩むことはなかったが、もともと便秘がちの人は相当悩まされるだろうなと感じた。
胎児への影響を心配して便秘の薬を飲まない人もいるが、産婦人科に相談すればしっかりと処方してもらえるので恥ずかしがらず相談するのが一番である。

頻尿に関しては、妊娠後期から気になりだした。夜中に何度も起きるほどは悩まされなかったが、出かけた先では必ずトイレに入るのが習慣になった。ここで入っておかないと次まで我慢できないかもしれないという不安があるのだ。
そこでトイレ問題に直面することになった。

妊婦とトイレ

妊娠後期になると約8kgの水風船がお腹に入っているような状態になった。しかも意志とは関係なくぼこぼこと暴れて体が揺れる。
そんな時、外出先のトイレが和式トイレであると非常に不便であった。前に体重を掛ければお腹が圧迫され苦しく、後ろに体重を掛ければバランスを崩して尻もちをついてしまう。
また、妊娠後期はお腹が突き出ているため、用を足した後、拭く部分が全く見えない。そして手もうまく届かない(女性は前からも拭くので)。和式トイレで試行錯誤しているとあっという間に足が疲れてしまった。自分には関係ないと思っていた手すりが役に立った。

その他に困ったのは、床が濡れていたり段差があったりするトイレであった。転びそうで怖かったのを覚えている。また、個室のスペースが狭く、ドアが内開きのトイレだと大きなお腹がドアに引っ掛かり閉めるのに苦労した。広くて清潔でゆっくり座れるトイレが妊婦にも必要であると感じた。

〈産後〉お尻の悩み

出産すれば体も軽くなりトイレも楽々だと思っていたらそうではなかった。
出産では分娩をスムーズに進めるために会陰切開(膣口と肛門までの会陰部に切り込みを入れること)をすることがある。産後トイレに入るとき、息んだら傷口が裂けるのではないかという幻想でなかなか踏ん張ることができなかった。そのせいで産後も便秘でスタートしてしまう人は少なくない。

また、分娩時に息みすぎて痔や脱腸になる人もいる。そんな中、私が悩まされたのは、肛門付近の筋肉の緩みであった。出産の際に伸びてしまったのか、はたまた妊娠中から筋肉が弱くなっていたのかはわからないがとにかく緩んでしまった(新たな意味の緩い系女子である!)。

筋肉が緩むとどうなるかというと、まず、おならが止まらない。まだ分娩台にいるというときから勝手に出始めた。肛門を締めたくても力が入らないのである。そしてさらに困るのが、便意が突如襲ってくることだった。
病室から授乳室に行くまでの間にも肛門がムズムズしてくる。慌ててトイレに戻ると少量の便が出るだけである。おそらく筋肉で抑えて、便を留めておくことができないのだろう。これは産後2週間ほどで落ち着いたが、それまでの間はどこに行っても「漏れちゃうー!」と焦っていたのを覚えている。

次に、産後1か月のころから悩まされたのは、痔であった。授乳中の座り方が悪いのか、母乳に水分を取られ便が固くなっているのか、切れ痔になり出血した。まさか産後時間が経ってから切れ痔になるとは思ってもみなかった。2か月ほど悩まされ、その後は徐々に回復しつつある。女性の痔についての講演会でもあればぜひ参加したいところだ。

赤ちゃん連れでのトイレ

さて、今度はまたトイレの問題に戻る。
産後の様々なトラブルを乗り切り、子どもと外出をするようになった。まず行くのは子どもの検診や予防接種のための病院である。私は引き続き出産をした総合病院にお世話になることになったが、やたらと時間がかかる。
首の座らない赤ちゃんとその荷物を抱えていると、自分がトイレに入ることは難しく、5~6時間我慢することもある。また、おむつ替えにも苦労した。病院ならどこのトイレでもおむつ替え台があるだろうと思っていたが、そうではなかった。

女子トイレや車いす用のトイレを覗き、やっと4か所目のトイレで赤ちゃん用のおむつ替え台を見つけたのである。しかし台は小さく、荷物を置く棚などもなく、子どもと荷物を台にぎゅうぎゅうに置く羽目になり、やりにくかった。ちなみに授乳室も院内に1つしかない。病院のスタッフさんたちはとても良くしてくれるのに施設が追い付いていないのは残念だと思っている。

そんなある日、私は外出先でトイレに入ることに挑戦してみた。

ベビーカーを持っていなかったので、子どもを抱っこ紐で抱いたまま用を足してみた。拭けない。妊娠後期よりも手が届かない。前に屈めば子どもが落ちそうになる。また、抱っこ紐のベルトがしっかりと腰についているため、服も上手に整えることができなかった。

ほかのお母さんたちがどうしているか気になり、SNS上で聞いてみた。『ベビーカーに乗せて広いトイレに入る・個室内のベビーベッドに子どもを置く・抱っこ紐のまま頑張る・1人で外出しない・トイレを我慢して家まで猛ダッシュetc. 』と答えが返ってきた。
条件にあうトイレがすぐに見つかるとは限らないので、どのお母さんたちも苦労をしているようであった。出かける前にトイレ情報が得られるだけでも気持ちが楽になるだろうなと感じだ。最近は授乳室やおむつ替えなどの情報を調べられるアプリが充実しているので少し助かっている。

赤ちゃんの便秘

子ども(赤ちゃん)でも便秘になるというのは、日本トイレ研究所の活動でも学んできたことであったが、その時は、離乳食がスタートする頃から注意をすればよいと思っていた。

実際に育児をしてみると毎日の体調チェックにうんちの状態をみることはとても大切だと実感した。便秘に関しても、新生児の頃から便が1週間以上でない赤ちゃんもいることに驚いた。離乳食が始まっていなくても、母乳育児なのか、粉ミルクで育てているのかによって便のにおいや回数、固さなどが変わってくることがある。また、粉ミルクのメーカーによってもA社だと便が固くなる、B社だとやわらかくなり排便回数も多くなるなど奥が深い。

新生児の頃は1日に何度も排便をしていたのに、しばらくしたら1日1回になり便秘だと心配していたら、肛門の筋肉が発達しただけという場合もある。赤ちゃんのうんちは本当にいろんなことを教えてくれる便りである。

これからの環境

このように、まだ子どもが生後半年も経っていない間に、いろいろな困りごとに直面してきた。これから子どもの離乳食が始まったら…、歩き回るようになったら…、はたまた子どもがもう1人増えたら…?また、新たな気づきがあることだろう。

今回私がお伝えしたことは、妊娠出産そして子育てを経験している方々にとってはすべてあたりまえのことかもしれない。しかし、これからもあたりまえに悩んでいかなければならないのだろうか。妊婦や赤ちゃん連れ、子ども連れの方が安心して過ごせるのが“あたりまえ”の情報や環境がこれからも増えていくことを願っている。

兒玉 美冬
兒玉 美冬
日本トイレ研究所個人会員

立教大学観光学部卒業。幼い頃から旅行とトイレに興味があり、海外秘境専門の旅行会社に勤務後、NPO日本トイレ研究所のスタッフとして邁進。現在は個人会員として関わりながら、1歳と2歳の男の子の育児に奮闘中。

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