うんちはすごい

うんちとおしっこが循環する(映画「せかいのおきく」)

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

2023/02/22

少しづつですが、寒さがやわらいできましたね。
試写会のご案内をいただき、ゴールデンウィーク(4/28)に公開される映画「せかいのおきく」を観てきました。

下肥買いという生業

この映画は、江戸時代の循環社会の暮らしを庶民の目線で描いた青春映画です。

ですが、単なる青春映画ではありません。
なんと、中心人物の仕事は下肥買い(くみ取り業)なんです!

そもそも下肥買いってなに?ですよね。
日本では、鎌倉時代くらいから昭和の中頃(ほんの60年くらい前)まで、ヒトのし尿を農地に還元していました。
ざっくばらんにいうと、うんちとおしっこを肥料にして農作物をつくっていました。

たとえば江戸のまちには、長屋に共用のトイレが設けられていて、そのトイレを使います(各家庭にトイレはありません)。
そこに溜まったし尿(うんちとおしっこ)を、下肥買いという人が桶をもって買いにくるのです。

いまだと、バキュームカーでし尿を汲み取ってもらうためにお金を払うのですが、この当時は、逆にし尿を買ってくれたのです。
下肥買いの人は、このし尿を農地まで運ぶという仕事をしていました。

 

うんちとおしっこ30リットルで約500円?

江戸時代のイラストで桶を担いだ人を見たことはありませんか?

様々な桶がありますが、その一つがし尿を運ぶための桶です。あの桶、約30リットルも入るらしいので、前後に1つずつ計2つを担ぐと約60リットルです。それを何度も、毎日運ぶのは相当大変です。

ちなみに、1桶のし尿の値段を現在の価格に換算すると、500円くらいだそうです。

以下の環境省のサイトに循環のイラストがありましたので、リンクを貼っておきます。
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/basic/pamph/pdf/wts-jp_02.pdf

食べたものがうんちやおしっことして出てくるわけですが、それを大地にもどすことで食べものになり、また食卓に戻ってくるという循環です。

 

臭い物に蓋をしてよいのだろうか

この映画の企画・プロデューサーの原田満生氏は、以下のように解説しています。

「江戸時代は資源が限られていたからこそ、使えるものは何でも使い切り、土に戻そうという文化が浸透していました。人間も死んだら土に戻って自然に帰り、自然の肥料になる。人生の物語もまた、肥料となる。自然も人も死んで活かされ、生きる。この映画に込めた想いが、観た人たちの肥料になることを願っています」

原田氏は、日本を代表する美術監督だからなのか、し尿や肥溜めの描写がリアルで驚きました。。
でも、このリアルこそが「生きる」ということですね。

「臭い物に蓋を」という言葉がありますが、し尿はもともと人間の一部であり、社会で共有するもののはずです。
江戸時代は、当たり前としてし尿を身近に感じられる生活があり、それが日常だったのだと思います。

この映画では、隠しがちなことを江戸の若者の視点でオープンに描いています。うれしさや貧しさ、恋も差別も全部です。

このときの若者の声をもっと聞きたい、そう思わせてくれる映画でした。

 

厳しいけどやさしい日常であってほしい

日常っていうと平和なイメージがしますが、それは平坦なものではなく、常に変わり続ける激動です。そんな中でも家族や仲間、地域の人たちと接しながら、ぶつかりながらも希望を失わないことの大切さを感じさせてくれます。

厳しいけどやさしい、毎日がそんな日常であってほしいです。

みなさん、ぜひご覧ください!

『せかいのおきく』
黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治

配給:東京テアトル/U-NEXT /リトルモア
©2023 FANTASIA
2023 年 4 月 28 日(金) GW 全国公開

加藤 篤
加藤 篤
日本トイレ研究所代表理事

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。
小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業を展開。
災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組んでいる。

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