災害時のトイレ

災害時のトイレ問題と備えを進めるために

小國 恵子
小國 恵子
女性と防災の会 代表/NPO法人 日本防災士会愛媛県支部 副支部長

2021/09/02

災害時のトイレ問題との出会いは黒田裕子さん

災害時のトイレ問題に取組むきっかけは、東日本大震災発生から半年後に仙台で開催された研修でお会いした黒田裕子さん(享年73歳)でした。翌年2月に黒田さんを講師に招き“避難所運営のカギは、女性たち”という講演会を開催しました。その際、黒田さんが「災害時のトイレは重要な問題。話しに来ますからまた呼んでください」と仰ったのです。当時の私は災害時のトイレのことなど想像すらしていませんでした。現状を知ろうとネット検索して行きついた先が日本トイレ研究所のホームページでした。

もともとお腹の弱い私は、人の気配を気にせず安心して利用できるトイレを探すことが日常化していたので、災害発生後に真っ先に困るのは、この私だと気付いたのです。
現状や対応策をいろいろと学びたいのですが、地方ではそのような機会はありません。いかんせん災害時のトイレを問題とする視点など全くなかったのですから。そこで何度か上京することで多くを学ぶことができました。

多くの方に災害時のトイレ問題を知ってもらうために

災害時のトイレ問題を学び始めて3年、2015年1月にようやく松山でトイレ問題に取組む分科会『「トイレは命を守るもの」~みんな困った 災害時のトイレ~』を実施しました。会場はあえて調理室。注目されがちな“食”と同次元でトイレ問題と向き合ってもらいたいとの思いからです。行政や企業から借りた簡易トイレや携帯トイレの展示品を背に、阪神淡路大震災の経験者と衛生事業組合の事務局長のお二人から現状を話していただくのですが、すごく困った大変だったという先の見えない話だけで終わらせてはいけないのではと考え、身近なもので排泄物を処理する方法が必要だろうと、話合いと実験が始まりました。

ワークショップ

実験の準備物はどの家庭にもある新聞紙がメイン。犬や猫を飼っている家ならペットシートや猫砂があるはず。処理用凝固剤も使います。これらを透明なポリ袋に入れて、尿に見立てた色水を200ml注いで観察。吸収状態を見ながら再び色水を注ぎ吸収材料を追加していくというもので実験は参加者に行ってもらいます。

地域の防災訓練でトイレの実験

地域で実験をするようになると、いろんな感想を聞くようになりました。水洗トイレが使えなくなることを知らない人。自宅のトイレは使えなくても避難所に行けばなんとかなると考えている人。トイレのことを誰に聞けばよいのか分からなかったと話す人。一方で、「こんなことこそ皆に知ってもらうことが必要だ」「実験を通して地域の備蓄を考えたい」「備蓄した」等々です。実験はどんどん広まっていきました。もちろん実験後は実際に使ってみることを申し添えます。

行政の防災備蓄品一覧 あなたのところにすぐ届きますか?

あちこちに講話に出向きますが、災害時のトイレに特化した内容とは限りません。それでも災害時のトイレについてあえて触れます。実験をしないときに見ていただくのが自治体の「防災備蓄品一覧」です。

まず食料数を紹介。次にトイレ関連の数量を人口比で説明。極端な例ですと450人に簡易トイレが1基だとしたら、処理用凝固剤を市民が1回使用したら残りはありません。その後の処理はどうしましょう?と参加者に投げかけます。行政も自主防災組織も備蓄を努力しているが限界があること。災害時応援協定があっても物資は直ぐには届かない。携帯トイレ等7日分は備えてくださいと伝えています。

くるくる巻きトイレの誕生

平成30年7月西日本豪雨災害の被災地で「行政に頼らない防災訓練を実施するのだが、簡易トイレはなんとかならないだろうか」と主催者から相談がありました。
発災直後から必要とするトイレ。時間をかけず誰にでも簡単に作れないかと仲間と何度も試作して一つのものが出来ました。もちろん実際に試してみたら合格点でした。

くるくる巻きトイレレシピ

このトイレはあくまでも緊急使用のものですから、地域の拠点となる場所に安全に使用できる簡易トイレとトイレアーム(手すり)の備蓄は欠かせません。

地域で作るくるくる巻きトイレ

備えていても命がなければ使えない

私たちは災害で自分が死ぬことなど想定していないのが普通です。しかし備えの多くは災害発生後に使用するものばかりが注目されているように思われます。もちろん災害後を生き抜くために必要な備えです。

災害時のいろいろな備え

災害発生前の備えはもっと重要です。だって災害時に死なないための備えですから、しっかり見直しましょう。
まずは、ご自身が災害で命を失わないために、けがをして機動力を失わないように・・・。

さぁ今日からはじめましょう。命を守るために生き抜くためにいろんな備えを!
生きていてこそのトイレの備えですから。

おわりに

最期まで現場主義を通した黒田裕子さんのこの言葉を私は忘れることができません。

尊い命を落とさないために水分と食事を摂ろう。トイレを我慢しないで!
災害直後であっても「人間らしい排泄を!」
「安心して排泄できる」トイレ
「狭い空間のなかでも人を気にしなくてできる」トイレ
「行きたいときに排泄ができる」トイレ

小國 恵子
小國 恵子
女性と防災の会 代表/NPO法人 日本防災士会愛媛県支部 副支部長

愛媛県立中央病院等を経て、私立愛光学園寮医務室の看護師のかたわら防災士を取得。2008年男女共同参画の視点で防災を考える「女性と防災の会」を有志と立上げ、月に1度の定例会で学びを深める一方、防災を自分ごととして考える市民向けの分科会や講座を企画運営している。地域の自主防災組織でも活動中。

PICK UP合わせて読みたい記事