災害時のトイレ

神田消防署のトイレカー

日本トイレ研究所
日本トイレ研究所
Japan Toilet Labo.

2023/02/09

東京都の神田消防署では、2021年4月26日からトイレ機能に特化した車両、トイレカー(神田救援)の運用を開始しました。トイレカーは、長時間活動における消防隊員のパフォーマンス維持を目的としています。消防機関としては全国初の導入です。現場で活躍する女性消防職員や女性消防団員が増えていることからも今後の普及が期待されています。ちなみに隊員の間ではトイレカーのことを「神田救援」と呼んでいます。

トイレカーは現場指揮本部長からの要請および警報本部の特命出場指令により、現場に駆けつけることになっています。対応する主な災害は、長時間の活動が見込まれる災害現場、震災時等の大規模災害、長時間の消防特別警戒です。

そこで、トイレカーとは一体どのようなものなのかを確認するため、神田消防署へ取材に伺いました。

トイレカー(神田救援)正面

トイレカー(神田救援)正面

トイレの配置と設備

トイレカーは、全長約8.05m、全幅約2.45m、全高約3.16m、車両総重量約7,985kgです。トイレカーの内部は大きく二つの空間で構成されており、別々にアクセスします。車両の側面からアクセスする空間には、男性用小便器が2基、大便器の個室が2室設けられています。一方で車両後方からアクセスする空間は1個室のみとなります。

トイレカー(神田救援)側面

 

まずは車両側面からアクセスする空間について紹介します。階段を数段あがると、左手に小便器があります。洗浄水が不要なタイプで2便器合せて200Lを貯留できます。また、必要に応じて大便器の貯留タンクに移送することもできます。大便器の利用頻度は多くないと考えられるので、このように臨機応変に移送できるのは、負荷変動対応として有効です。小便器利用者が外部から見えないようにするため、カーテンで空間を仕切ることができるようになっていました。

後方部には大便器が2室並んでおり、便器は新幹線などでも使われている真空吸引式で、超節水型便器です。貯留量は大便器3基で300Lです。

トイレの配置

 

大便器の個室には、夏場の暑さ対策として、それぞれ扇風機が設置されています。また、荷物置と隊服をかけるためのフックもありました。さらに、窓も設けられており自然採光が十分で室内はとても明るく、鍵も堅牢なもので施錠すると使用中かどうか外から分かるようになっていました。

なお、貯留した大小便は専用バルブにカップリング技術を用いてホースを接続して汲み取ります。貯留量のゲージもありました。

男性用スペース①

 

貯留タンクと汲み取り用バルブ

 

車両の後方からアクセスする空間は、1個室で女性用更衣室兼個室になっています。真空吸引式便器で荷物置きとフック、扇風機に加え、フィッティングボードが設置されています。窓は曇りガラスに加え、カーテンが設けられていて安心できます。個室に昇るための階段は車体に収納されていて、手すりも設置できるようになっていました。

女性用更衣室兼個室

手洗い機能

手洗い器はタンク式のものが男性用スペースには二つ、女性用スペースには一つ設けられていました。手洗い排水はシンク下のタンクに貯留する方式になっています。どちらにもハンドドライヤーと鏡がついています。手指衛生対策も十分です。

手洗器と排水貯留タンク

 

出動実績と今後の展望

トイレカーの運用状況は、令和4年10月末時点で72件、2020年7月におきた静岡県熱海市の土石流の際には、現場に緊急消防救援隊として出場しました。

現在運用しているトイレカーは東京消防庁に配備している車両だけですが、多摩地区へ出場する際は、時間がかかってしまうことや、神田消防署のトイレカーが出場した場合に補完隊がいないなどの問題点があることから、多摩地区に2台目の配備を予定しています。

これまで日本トイレ研究所はトイレに大切なことは「安心」だと提案してきたわけですが、今回の取材でトイレカーの構造や施錠など非常に堅牢であることが、トイレの安心につながることを再確認できました。このトイレであれば屋外であっても安心して用を足すことができます。

トイレカーの実働をとおして、外部照明の確保やトイレ入口の目隠し、燃料補給の作業性など、新たな課題も明確になっています。トイレカーは消防隊員のパフォーマンス維持が主目的ではありますが、被災地で避難者が使用することも想定しています。そのためには、スロープ設置や手すり、レイアウト等についてもさらなる工夫が求められると考えます。

今回、取材させていただいたトイレカーが日本中の消防署に配備されれば、消防隊員の職場環境改善だけでなく、地震や水害、大雪の立ち往生など、様々な場面においてトイレ救援が可能となります。被災地におけるトイレ環境の質的改善は、関連死を防ぐことにつながります。トイレカーの今後のさらなる活躍と普及に期待したいと考えます。

取材に応じてくださった東京消防庁の佐々木さま、神田消防署の宮彦さま、江藤さま、大野さまに改めて御礼申し上げます。

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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