2023年9月29日(金)東松島市コミュニティセンターにて、「防災トイレフォーラム2023」を開催いたしました。
本フォーラムでは、過去の災害で避難所運営にあたった施設管理者や災害対応にあたった⾏政担当者に当時の状況や課題、改善点についてお話しいただき、時間経過に応じたトイレ対応のあり⽅や避難所における良好な⽣活およびトイレ環境の確保に向けた取り組みについて情報共有しました。全国から約300名の方にご参加いただきました。
今石佳太氏(兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 客員研究員、前 熊本県益城町危機管理監)にご講演いただきました「時間経過に応じた避難所運営の課題~被災地における避難所の環境改善を目指して~」について、以下に要旨をご紹介します。
避難所・避難生活の改善への取組み
阪神・淡路大震災では、トイレの問題が大きな課題となりました。地震による影響で下水道配管が破損したことが主な原因です。
そのために設置した応急の仮設トイレも数が著しく不足し、利用環境・衛生状態も良くありませんでした。瞬く間に便器は汚物で満杯になるため、職員や住民有志が手袋を着用してかき出し、土の中に埋めるなどで対応を行っていました。在宅の避難者においても、下水道が破損していたことも把握していたと思いますが、排泄を我慢することができず、トイレに用を足してしまっていました。
当時の印象に残っている話として、救援物資として市販薬が送られてくるのを見て、1月という時期を考え風邪薬のニーズが高いのではと思い、担当職員に確認したところ整腸剤がすぐになくなるようでした。
また、トイレの環境が良くないことや、隙間がないほど密集した避難所で深夜にトイレに行くことが憚られ、トイレを行く回数を減らすために食事や飲料水を控えることによる健康被害への懸念という問題も発生していました。
1930年の避難所の様子と2016年の熊本地震の際の避難所の様子を比較しても、その環境はあまり改善がされていないことが分かります。
阪神・淡路大震災や東日本大震災を経験し、共通の課題である避難環境の問題が明らかになり、災害対策基本法に明記されるなど法改正が進んだにも関わらず、それ以降に発生した災害についても改善が進んでいないことは問題であり、健康被害への影響という問題が繰り返されているます。
熊本地震での課題
東日本大震災から5年後に発生した熊本地震は、災害としての規模や特徴こそ異なるものの、避難所の環境は改善されたとは言い難い側面が垣間見えます。震災後に内閣府が実施した避難所に関する調査によると、避難所に避難した被災者は5割を切っており、避難環境の悪化から在宅避難を選択する人々や、連続して発生する余震への不安から車中避難を選択した人々への配慮は、避難所での避難者に比して行政の目が行き届きにくく、体調の変化などに気づきにくいことなどが懸念されています。
食事の提供に関しては、災害救助法の適用になった時点で、一定の資金調達の目処が着くことから、それらを基に食事が供給されます。一般的には朝食はパン類、昼食と夕食は弁当ということが多くなり、糖質や脂質が過多となる一方、野菜不足などの影響によりビタミンやミネラルの不足ということが調査結果からも示されています。
同調査ではトイレに関する調査も実施されており、「清潔が保たれていない」、「数が不足していた」、「利用ルールが明確でなかった」、「高齢者への配慮がなかった」などの課題が明らかになっています。
また、別の調査においては被災者のニーズは、トイレを含めて時間経過に応じて変化することも示されています。発災から1週間程度は、多少のことは辛抱することができますが、それ以後はより良好な環境が求められるために支援にあたっても時間経過に応じて対応する必要があります。
我が国においては、熊本地震の5年前に東日本大震災という未曾有の災害を経験したにも関わらず、変わらずに避難環境への課題を多く残したことを受け、益城町では避難について防災対策上の優先課題として改めて見直すこととしました。
具体の一例として、事前の避難所レイアウトに関する研究や民間事業者との避難環境改善のための独自の段ボールベッド等の開発協定や、災害時における食の開発と地産地消の食材を活用するための協定締結などです。更には避難所運営方法について誰でも直感的に判断できるピクトグラムを多用したアクションカードの開発などに加え、避難所外避難者の動向調査のためのシステム研究に着手しました。
災害食改善への取組み
熊本地震の際に、益城町で数カ月間にわたって避難者に提供された毎食の記録を保存していたことから、熊本県内の大学に依頼し栄養分析を行いました。結果としては、前述のとおり糖質や脂質の過多やビタミン、ミネラル等の不足であり、これらは過去の災害においても同様のことが課題とされていました。
災害時の食の提供には栄養学な側面と食が与える精神的な側面が介在しており、安定的に大量の食事を供給する中においては、既存の弁当等に頼らざるを得ないものの、栄養学的或いは精神的な部分の安らぎということから、地元調理師組合との協定により、地産の食材を用いた温かい地元熊本で慣れ親しんだ「だご汁」的なものを可能な限り提供するように改善を図りました。
更には、地震後再建した町給食センター内に災害時に活用できるための大型炊飯装置の整備や、町内各所に整備を行った防災倉庫内に災害用備蓄食品や炊飯装置を設置するなど多方面での食の改善を行いました。
食改善のための取組み事例(画像作成:今石佳太氏)
生活環境改善への取組み
益城町では、避難所環境改善の標語として、「T K B48」を掲げました。これは、T(トイレ)、K(キッチン)、B(ベッド)を災害後48時間以内には整備を行うという目標であり、改善を図ろうと取り組む最中に、新型コロナウイルスの流行を受けて取組に感染症対策を新たに追記する形で強化を行いました。
感染症下における益城町避難所運営で目指すこと「避難所環境改善TKB48」(画像作成:今石佳太氏)
具体的には、避難所における居住空間確保として家族構成に応じた割当や対象避難者別ゾーニング、感染症対策の徹底管理、明確な目標管理の習熟、災害後の早急な資材投入などです。
災害直後には、誰もが適切に対応できるよう開発した「アクションカード」は写真やピクトグラムを用いることにより、目視により直感的に行動できる効果が期待でき、避難所運営やトイレの衛生管理や利用のルールなどにも活用できるものと考えています。
更には災害後の健康被害への影響が大きいとされる在宅避難者への食やトイレの支援についても、適切な支援を行うための情報が必要であることから、町で防災情報の提供のために活用していた「ましきメール」のアンケート機能を活用し、おおよその避難場所や避難人数、要望など避難所外避難者の把握に努めるようにしたことにより、支援の枠が拡大できたものと考えいます。
避難所における居住空間確保の取組での課題(感染対策含)(画像作成:今石佳太氏)
まとめ
阪神・淡路大震災以降の20数年間に全国各地で発生した災害を振り返っても、排泄に係るトイレや健康にも大きく影響を及ぼす食の問題、更には心身の疲労にも関わるベッドに代表される避難所の環境などの改善は、国県等の制度活用やボランティアの支援を受けてはいるもの大きな改善が図られたとは言い難いです。
食に関しては、改善は図られてはいるものの最低限の生存のための枠内から脱し切れてはいないように感じ、パーティションの設置による避難所での個別スペースの確保は、新型コロナウイルスの影響により進んだものの設営までの時間の短縮という課題があります。
排泄でのトイレの問題は、災害に限らず日常生活として捉えた場合においても心的ストレスなどの問題で大きく影響される分野であることは言うまでもないことです。
ましてや、災害後の心身に及ぼす多大な影響やストレスを考慮するとトイレの問題は改めて考えるべき重要なファクターであると思います。
災害後の避難生活によって命が失われることはあってはならないと強く思います。そのためのスキームを再構築するためには従前の行政が市民かの二択ではなく、初期段階での民間活力の積極活用も視野に入れ検討すべき時期ではないかと考えています。
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