おすすめトイレ

当事者を巻き込んだバリアフリートイレって?

大塚 訓平
大塚 訓平
NPO法人アクセシブル・ラボ 代表理事

2021/10/07

多機能トイレは「はぐれメタル」

多機能トイレは、一般トイレに比べて数が圧倒的に少ない。
外出先で探すのに苦労する、なかなか出会えない事から、ドラクエで言えば、はぐれメタル的な存在だ。(・・・RPG|ロールプレイングゲーム好きな人なら、すぐにイメージできると思いますが)

『はぐれメタルは(多機能トイレは)、冒険中に(外出中に)めったに出会うことがなく(探すことが困難で)、たとえ運良く出くわしたとしても(見つけたとしても)、逃げられたり、ダメージを与えられなかったりして(他の誰かが使用中だったり、欲しい設備が整っていなかったりして)、倒せない(使えない)』ということがある。

みなさんは外出する際に、トイレがどこにあるかを事前に調べたことはありますか?ほとんどの人が“No”と答えるのではないでしょうか。
僕も12年前に事故に遭わず、脊髄を損傷していなければ、同じ答えをしていたはずです。
僕自身、車いすでの生活になって間もない頃は、外出先のどこに多機能トイレがあるかを、常に調べてから行動していました。しかし当時、そのような情報はweb上に載ってなくて、調べるのに大変苦労したことを鮮明に覚えています。
現在では、各種バリアフリー関連の法律や条例が整備され、浸透してきたことにより、以前に比べると公共施設や交通機関、商業施設などで、多機能トイレを設置することが徐々にスタンダードになってきました。
しかし、設置増に伴って、利用実態にそぐわない、バリアフリートイレも増えました。例えば、手すりがついているものの、手が届く位置に設置されていない(画像1)、背もたれがあるのに、便蓋がついている為、背もたれの用を為さない(画像2)、洗浄ボタンが身体をひねらないと届かない位置に設置されている(画像3)など、実際に使用する当事者の意見が置き去りになっていることが多いと感じます。

手すりが手が届く位置に設置されていない(画像1)
背もたれがあるのに便蓋があって使えない(画像2)
洗浄ボタンが体をひねらないと届かない(画像3)

ルールより、ゴールを伝えよう

これらは、法律や条例で決められた【ルール】を守ることにだけフォーカスをした結果、生じたミスと言えます。手すりや背もたれは、なぜ必要なのか、どのように使用するのかを知っていれば、ミスは起こらなかったはず。こうしたことから、あらゆる事業者に【ルール】と同時に、設備を整備することによって、多くの人が外出機会を得ることができるようになるという【ゴール】をしっかりと伝える必要があると思います。その最も効果的な策は、当事者を設計企画段階から巻き込むことで、意識を変え、課題や意見を集約し改善に反映することです。

上の3つのトイレを見て、気づいた方もいるかもしれません。全て、便座に腰掛けた時に右側に壁があり、L字型の手すりが設置されています。
ここでクイズです。もし、あなたが脳卒中(脳梗塞、脳出血等)により、身体の右半身が麻痺し、車いすを使用していた場合、これらのトイレは使えますか、使いやすいですか?
このレイアウトの場合、車いすからトイレに向かって右側を支点にしながら移動しなくてはなりません。右半身が麻痺していては移動ができない、または移動しづらいはずです。ですから、多機能トイレを複数整備できるときは、レイアウトを反転させて、右側にアプローチするものと、左側にアプローチするもの両方をつくった方が良いのです。また、このアプローチする方向についての情報は、トイレの扉を開けるまで分からないことがほとんどです。例えば、『3階には左側にアプローチするトイレがあって、8階には右側にアプローチするトイレがあります。』みたいな情報があると、自分の使い勝手の良いレイアウトのトイレを瞬時に選ぶことができ、最短距離で移動できて嬉しい配慮と感じますね。因みに僕はどちら側のアプローチでも移乗可能ですが、どちらかというと、左側にアプローチするトイレの方が好きです。(上の画像とは逆のレイアウト)

名称によるバリアもある

また、ハード面のバリアだけでなく、トイレの名称によるバリアもあることを知って欲しいと思います。メーカー各社が多機能トイレのパッケージ商品を提案し、ほぼ同規格で整備されるケースが増えてきました。これにより、設備面で多くの人が使いやすいトイレになり、『だれでもトイレ』『みんなのトイレ』という名称にする施設が増えました。しかし、利用対象者が増えたことにより、本当に必要としている人が、利用したい時に使えない、長時間待たされるということも多発しています。『だれでも』『みんな』というワードの前に『一般トイレの利用が不可能、困難な人なら・・・』がつくことを広く知って欲しいと思います。

同時に、一つの個室に対して文字通り多機能すぎる、豪華すぎることが問題視されることもあります。ただでさえ数の少ない多機能トイレに、ありとあらゆる機能を詰め込んだ結果、その機能を必要とする人たちが一つのトイレに集中してしまったり、排泄以外の目的で使用したり、快適がゆえに読書をする人もいて、結果、待ち時間が長くなるという問題が起こっています。多くの機能を一つにまとめるのではなく、機能を分散して、それぞれの利用実態に合った個室を作り、選択できるようにすることが今求められています。

障害によって排除されないトイレって?

トイレ愛が溢れている為、話が長くなってきましたが・・・(笑)
講演やコンサルティングで様々なところにお邪魔する際に、『訓平さんが思う、最高のトイレってどこですか?』と聞かれます。『そりゃ自宅のトイレに決まってるでしょ』と言いつつ、良い取り組みをしている場所を答えます。それは・・・『高速道路のサービスエリアにあるトイレ』だと。
一つ例を挙げると、東北自動車道『蓮田SA(上り線)』のトイレはよくできていると思います。
だれもが見やすい位置に、トイレ全体の配置が分かる図面があり、そこには備えられている設備がピクトグラムで描かれています(画像4)。

東北自動車道『蓮田SA(上り線)』のトイレ(画像4)

機能もうまく分散されていて、多機能トイレのほか、ファミリートイレ(画像5・6)、おむつ替えや授乳のできるベビーケアルーム、そして一般トイレ内に車いすでも入れる大型スペースのトイレや、オストメイト設備を備えた個室(画像7・8)、女性側には更衣室まであります。隣り合う多機能トイレは、反転させたレイアウトになっており、障害によって排除されることがないトイレになっています。(画像9)
また内部には、多くの当事者に必要と思われる設備が、適切な位置に設置されており、介助者を伴って利用する時に役立つ、仕切りのカーテンも完備されています(画像10・11)。

ファミリートイレ(画像5・6)
オストメイト設備を備えた個室(画像7・8)
左右反転したレイアウトの多機能トイレ(画像9)
介助者と利用する際に役立つ仕切りカーテン(画像10・11)

ここまで整っていれば、自分が必要とする機能のあるトイレを自由に選択できます。しかし、これだけの事をやろうとすると、相当な投資額になるため、そう簡単にだれでも真似できるものではないでしょう。今後は、こうしたトイレと並行して、より簡易的にそして低コストに整備ができるような方法も見出すことが必要になると思います。

海外では、一般トイレの中に、扉も個室内のスペースも広くとって、手すりも設置されているトイレが多く見られますが、この整備の仕方が公平で良いと思っています(画像12・13)。入り口にも車いすのピクトグラムが描かれていて、洗面台も一つだけ膝入れのスペースを設けるなど工夫がしてあります(画像14)。『分ける』よりも『混ぜる』という感じで心地よく感じます。

一般トイレの中に設置された広い個室(画像12・13)
右端の洗面台は車いすで接近できるよう足元にスペースを設けてある(画像14)

高スペックなトイレを必要とする人もいれば、扉の幅や個室内に一定の広さだけがあれば良いという人もいる。障害は十人十色。求められるトイレも十人トイレ(笑)。
多様なニーズに応えられるトイレが増えれば、『外出が楽しくなり(冒険が楽しくなり)、多機能トイレを探さなくても(はぐれメタルを探さなくても)、排泄課題を解決できる(レベルアップできる)』ようになるのではないでしょうか。

大塚 訓平
大塚 訓平
NPO法人アクセシブル・ラボ 代表理事

2006年、不動産会社オーリアルを創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすでの生活になったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、NPO法人アクセシブル・ラボを設立し、健常者と障害者のどちらも経験しているという独自の目線で、ハード・ソフト両面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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