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女子トイレの問題!生理への対処(MHM)を意識して

杉田 映理
杉田 映理
大阪大学 人間科学研究科

2021/02/04

女性特有のトイレ・ニーズとは?

「女性はトイレが長い」とよく言われます。女性×トイレ×長い、の3つのキーワードでインターネット検索をしてみると、驚くほど色々なサイトが出てきて、その理由やら不満やらが書かれています。

個室数が少ないといった設備の問題や、男性とは異なる排尿スタイル、あるいは個室のプライベートな空間だからこそできるスマホのチェックや着替え、また個室外の手洗い場や「パウダールーム」でのお化粧直し・見出しなみチェックなど、トイレが長くなるには、色々な理由があるようです。あまり、取沙汰されていませんが、生理中の対処もトイレの個室内で行われ、普段よりは時間のかかる要因です。

この生理への対処、実は、トイレで行う必要のあること(仮にトイレ・ニーズと呼びます)で男性と女性が決定的に違うことのトップに立つのではないでしょうか。トイレは、し尿だけではなく経血を体外に排出する場でもあります。生理中の女性にとって生理用品を持ち込み、ナプキン等を交換し、使い捨ての生理用品であればそれを廃棄する場もトイレです。

生理中の女性のトイレ・ニーズに焦点をあてると、色々なトイレでの困りごとが見えてきます。まず、オフィスや学校では生理用品の入ったポーチをトイレに持っていくことを見られるのが恥ずかしい、外出先のトイレで生理が始まったことに気づいたもののナプキンの持ち合わせがない、といった状況があります。オフィスによっては、そうした声に応えて女子トイレの空間内に小型のロッカーを置いているところもあるようです。

また、使用済みの生理用品の廃棄については、サニタリーボックスが個室内にない、あっても他のゴミなどが捨てられていていっぱいである、サニタリーボックスに蓋がなくて他の人が捨てた生理用品が見えて不快である、蓋の開閉時に大きな音がして恥ずかしい、などなど。生理用品のサニタリーボックスの改良でこのような困りごとの解決を目指しているメーカーもあります。

生理休暇の取得率わずか0.9%

ここで改めて認識する必要があるのが、生理は日本でも、世界でも、そのことについて語るのが憚られる傾向があるということです。
話が逸れるようですが、日本は世界で最初に生理休暇制度(1947年の労働基準法)を定めた国ですが、2015年のデータ(厚生労働省)ではその取得率はわずか0.9%でした。医薬品による生理痛の軽減などの要因もあるでしょうが、「生理です」と申請しにくいということもあるようです。生理中の困りごとはなかなか声を大にして発言しづらいという前提に立てば、女性特有のトイレ・ニーズがある、ということを改めて意識することが、よりよいトイレ経験への出発点になるのではないでしょうか。

発展途上国の女子トイレ問題

さて、視点をかえて、発展途上国の特に学校トイレに目を向けてみたいと思います。WHO & UNICEFによれば、発展途上国の学校のうち、し尿処理が適切にされる・男女別・使用可能なトイレを有する学校は53%しかないそうです。これを100%にすることは、別の記事で私が書かせていただいたSDGs(持続可能な開発目標)でも目標として掲げられています。

特に、女子のトイレ・ニーズが満たされていないことが問題となっています。生理中は学校を休む女子が少なくなく、それが学力にも影響しているという研究が出されています。そして生理中に学校を休む大きな要因が学校のトイレや手洗い設備の不備である、と言われているのです。
その因果関係については、現在でもいろいろな研究で議論が継続していますが、女子教育の問題と女子トイレの問題が結びつけられたことで、ユニセフや国際NGOを中心に、次に示すMHM (menstrual hygiene management:月経衛生対処)を推進する動きに繋がっていきました。

学校トイレ(左:ニカラグア、佐藤峰 撮影。右:エチオピア、杉田映理 撮影)

MHM(エム・エイッチ・エム)―聞いたことありますか?

MHMは比較的新しい用語ですが、国際開発を実施する機関では定着しつつある用語です。よく用いられる定義を見てみましょう。

「女性と思春期の女子が経血を吸収する清潔な生理用品を使い、それをプライバシーが確保される空間で月経期間中に必要なだけ交換でき、石鹸と水で必要な時に体を洗い、使用済みの生理用品を廃棄するための設備にアクセスできること。」(WHO &UNICEF 2012, p.16、筆者訳)

こうした状況、すなわちMHMを推進することで女子生徒にとっての学校生活の質の向上や女性にとってのウェルビーイングに繋がると考えられています。MHMを実現するためには、生理用品や石鹸や水、月経についての知識、政策、保健サービスへのアクセスなども必要だと言われています。トイレの役割の大きさや生理中のトイレ・ニーズを踏まえることの重要性も見えてくると思います。

MHMを支えるトイレの在り方について考えると、プライバシーや生理用品の廃棄や水・石鹸へのアクセスなど、意外にも日本の女子トイレ・ニーズに共通するものがあることに気づかされます。日本でも、もっとこのMHMの概念が広がることで、女性にとってさらに心地よいトイレづくりに繋がるのかもしれません。

杉田 映理
杉田 映理
大阪大学 人間科学研究科

主にアフリカをフィールドに、トイレ、手洗い行動、水利用についての研究と、国際協力の後方支援(JICAの衛生分野のアドバイザー等)をしています。最近は、月経問題や学校保健にも関心を寄せています。

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