今回は、新型コロナウイルス感染症予防としての消毒剤についてです。
1時間当たりの顔への接触回数は平均23回
日頃、どのくらいの頻度で顔を触っていると思いますか?
たとえば、ニューサウスウエールズ大学の医学生(合計26人)を対象にした調査では、1時間当たりの顔への接触回数は平均23回でした。ちなみに粘膜部分で触れる回数が多いのは口で、つづいて鼻、目という順でした。
また、国内での幼児を対象にした調査もあり、手を顔や頭に触れるペースは1~2分に1回の頻度のようです。大人も子どももかなりの頻度で顔を触るということです。
トイレの取っ手、洗浄ボタン・レバー、トイレットペーパーホルダー、便座、便器のフタなどは、トイレ使用時に多くの人の手が触れるのでウイルスが付着している可能性があります。だからといって、どこも触らずに用を足すことは現実的ではありません。
そのため、接触感染を予防するためには、トイレ後の手洗いなどの手指衛生がとても大事なのです。
手洗い方法については様々な資料が公開されているので、今回は、感染予防としての消毒について、伊与亨氏(北里大学 医療衛生学部 公衆衛生学研究室)に話を聞きました。
以下、その内容をご紹介します。
「手洗い」と「手指消毒剤」の役割は?
加藤:まず、「手洗い」と「手指消毒剤」、それぞれの役割を教えてください。
伊与:手洗いとは、手に付着した病原体を落とすことです。消毒とは「殺菌」の一つで、感染力のある微生物を殺すことで、手指消毒剤とは、手指用の消毒剤です。消毒剤にも様々な種類があります。アルコール製剤は手指消毒剤の一つです。アルコール製剤以外には、塩素、ヨウ素、塩化ベンザルコニウム(逆性石けん)、グルコン酸クロルヘキシジン、銀イオン等の各種の消毒剤が挙げられます。どれが一番良いかではなく、用途に応じて使い分けます。
加藤:新型コロナウイルス感染症予防としては、手洗いで手に付着した病原体を落とすことが重要であることは理解できました。では、手指消毒剤を選ぶ場合、何か注意することはありますか?
伊与:アルコール系の消毒剤(例:エタノール溶液)が良いでしょう。アルコール系の消毒剤、例えば消毒用エタノール溶液の場合、脂質性の膜(エンベロープ)をもつウイルスに効果的です。新型コロナウイルスはエンベロープのウイルスですから、アルコール系の消毒剤は有効です。
加藤:手洗いと組み合わせると効果的でしょうか?
伊与:そのとおりです。手洗いの後に、消毒用アルコールなどの手指消毒剤で手指を消毒すれば、手に病原体が残ったとしても病原体はその感染力を失います。したがって、手指の衛生がより保てます。
私は、消毒用アルコールで、まず消毒を行ってから手洗いをしています。病原体が生きていると、手洗いという行為に抵抗し手にしがみついて残ろうとしますが、先に殺しておけば病原体も抵抗できず、手洗いで落ちやすくなるという理屈です。
手の汚れを落としてからでないと、アルコール消毒の効果が期待できない?
加藤:手洗いで汚れを落としてからでないとアルコール消毒の効果が期待できないと聞いたことがあります。ということは、伊与さんは「アルコール消毒→手洗い→アルコール消毒」ということでしょうか?
伊与:確かに、汚れがあるとアルコール消毒は効きにくくなるという傾向はあります。度々、手洗いをしている人ならば汚れはそれほど付いていないと考えています。手が汚れる作業をしたならば別ですが。私は、「アルコール消毒→手洗い」・「アルコールによる手指消毒は随時」という手指消毒・手洗いを行っています。もちろん、「アルコール消毒→手洗い→アルコール消毒」が一番効果的です。
ドアノブはどのくらいの頻度で消毒する?
加藤:厚生労働省のサイトには「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」として、「ドアの取っ手やノブ、ベッド柵ウイルスがついている可能性はあります。0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(薄めた漂白剤)で拭いた後、水拭きするか、アルコールで拭きましょう」と記載されています。
また、同省の「社会福祉施設等に対する『新型コロナウイルス対策 身のまわりを清潔にしましょう。』の周知について」では、「食器・手すり・ドアノブなど身近な物の消毒には、熱水や塩素系漂白剤で行っていただくことを徹底」と記載してあります。
加藤:そこで、「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいない場合」において、家族で自宅にいる場合、ドアノブなど、どのくらいの頻度で消毒するとよいですか?
伊与:念のためお伝えしますが、厚生労働省のサイトで紹介している「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(薄めた漂白剤)」は、ドアの取っ手やノブなどを拭くものとして記述しています。0.01~0.05%であれば手指への適応も認められてはいますが、手荒れを招く場合が多いので避けて下さい。そのため、薄めた漂白剤は取っ手やドアの消毒用溶液と、ここでは定義します。なお、「次亜塩素酸ナトリウム」と「塩素系漂白剤」は同じ成分を含みます。
紹介された厚生労働省のサイトでも、どのような頻度で消毒するかは記述していません。あえて書いたとしても消毒の必要が生じたときとしか書けないでしょう。ご質問の「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいない場合」の消毒頻度ですが、感染していないということを立証はできない状況では、感染が疑われる人がいる場合の家と同様に、ドアノブなどを消毒する必要性があります。
ドアノブやスイッチ類を触ったら消毒という基本を理解して行えば良いと考えます。もちろん、その頻度は、日常生活で可能な範囲としか説明できませんが。
まとめますと、ドアノブやスイッチ類の消毒は、「薄めた漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム濃度として0.05%)で拭いた後に水拭き」・「消毒用アルコールを用いての消毒」のいずれかを、必要に応じて随時行って下さい。
スプレー式のボトルに詰めてもよい?
加藤:0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(薄めた漂白剤)をスプレー式のボトルに詰めて使ってもよいですか?
伊与:塩素系の消毒剤は、新型コロナウイルスのようなエンベロープをもつウイルスにも有効です。スプレーボトルに詰めて使って良いと思います。ただし、漂白剤を販売しているメーカーでは、薄めた溶液でもスプレーノズルで噴霧するのは忌避して下さいと注意喚起をしています。
そこで、ティッシュペーパーをスプレーノズルの吐出孔に近づけてから噴霧して、濡れたティッシュペーパーを使ってものを拭くなど、スプレー蒸気を吸わないような使い方をして下さい。このように注意すれば、次亜塩素酸ナトリウム溶液の蒸気を吸う確率は限りなくゼロになり、メーカーの注意事項に対応できます。スプレーによるウイルス飛散のリスクも低下させることもできます。
また、塩素系消毒剤を薄めた場合、有効塩素濃度が徐々に低下します。1日に使う分量を調整してスプレーボトルに入れて使う、もしくは、毎日作るのが面倒な場合は、塩素濃度低下防止のため、冷暗所での保管が必要です。その場合でも、数日で使い切ることが良いではないでしょうか。有効塩素濃度を測定して管理できれば、何日で使い切るというような注意は不要ですが、有効塩素濃度を一般の人が計ることは難しいですよね。だから、冷暗所保管して数日で使い切ることを提案します。
加藤:ありがとうございました。
今回、教えて頂いたことをまとめると、以下のようになります。
感染症予防としての消毒剤の使い方 まとめ
1.手指消毒剤としては、アルコール系の消毒剤がよい
2.ドアノブなどの身近な物への消毒では、「所定の濃度に薄めた漂白剤で消毒後に水拭き」、「消毒用アルコールでの消毒」のいずれかを行う
3.塩素系漂白剤などを薄めた溶液をスプレーボトルに詰めて使用する場合、スプレー蒸気を吸わないような使い方に留意し、冷暗所に保管して数日で使い切る
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