よくよく考えてみれば、私たちの社会生活はいつもリスクと隣り合わせです。自然災害はいつ起きてもおかしくないですし、事故が発生する可能性だって常にあります。近年、頻発する自然災害と新型コロナウイルス感染症によって、それがくっきりと視覚化されたということでしょうか。避けられないのであれば、しなやかに対応するしかありません。
そこで今回は、このような時代にトイレはどのような役割を担うのか、そのためにはどのような意味が必要なのかについて考えてみたいと思います。
清潔から排泄へ視点をシフト
トイレはコモディティ化が進んでいます。これまでトイレに求めてきたことは「空間的な清潔さ」でした。具体的には「くさくなくて、明るくて、きれい」です。よく言われるトイレの3K(くさい、暗い、きたない)からの脱却ですね。公共トイレには、まだまだ課題はありますが、日本のトイレは飛躍的に改善されたのではないでしょうか。
これからの時代に求められるトイレの意味は何でしょうか?
結論を先に言うと、「清潔」から「排泄」へ視点をシフトすることだと考えています。言い換えると、「空間」から「身体」へのシフトで、排泄の重要性に着目して排泄にとってふさわしい環境を考えることが必要だと思います。
排泄のもう1つの役割
排泄にとってふさわしい環境づくりをするためには、排泄の役割をもう少し丁寧に理解する必要があります。排泄は体にとって不要なものを排出して生命を維持することですが、これ以外にもう1つ重要なことがあります。それは「ストレス解消」です。
ストレス解消
排泄は膀胱や直腸に排泄物が溜まった状態なので、体にストレスがかかっている状態です。このストレスはトイレに移動して排泄することで解消します。また、排泄は、副交感神経というリラックス状態のときに優位になる神経が担当しているため、そもそもリラックスすることが大事なのです。リラックスした状態で体のストレスを解消するので、リフレッシュ効果があるはずです。
ちなみに、排泄を我慢するとどのようなマイナス効果があるのかご存知ですか?
排泄は生理現象なのでずっと我慢はできませんし、我慢しつづけることは危険ですよね…そういう意味ではなく、便意や尿意を我慢しながら仕事や作業をしつづけるとどうなるかという質問です。
脳に負荷がかかった状態は、よりよい判断がしづらい
ここで、ある実験結果を紹介します。ババ・シーブ(スタンフォード大学教授)らによると、何かで頭が一杯になっていると屈しやすくなるという実験結果があります。どういう実験かというと、実験参加者を2グループに分け、1つのグループには2桁の数字を記憶してもらい、もう一方のグループには7桁の数字を記憶してもらいます。両グループとも指定の場所まで移動して数字を復唱する実験です。ただし、移動途中にダークチョコレートとフルーツ盛り合わせが置いてあり、通過する際、復唱後にどちらがほしいかを答える必要があります。
その結果、2桁の数字を記憶しているグループの方が、健康的なフルーツ盛り合わせを選ぶ確率が高かったのです。これにより、脳に負荷がかかった状態だと、よりよい判断がしづらいということが分かります。
参考:「ずる(嘘とごまかしの行動経済学)」(ダン・アリエリー著、早川書房)
これって、私たちの脳に難しい判断させ続けて精神的に疲労させた状態にすると、目の前の欲求に飛びついてしまいがちと理解することができます。ということは、排泄を我慢したストレス状態で仕事や作業を継続しても、よい結果は生まれにくいということになりますし、誤った判断をしてしまう可能性が高まるのではないでしょうか。
トイレに求められる役割
変化が激しくあまりにも不確定な要素が多い時代は、いろいろなことを常に考えなきゃいけないので脳は疲れてしまい、判断をあやまりがちです。変化そのものがストレスなので、しなやかに対応するどころではありません。
そんなときに、排泄するという機会を利用して、リフレッシュできたらいいなあと思っています。トイレに行くたびに身体がリセットされて、次のアクションに最適な状態で挑めるという感じです。1日に7回ぐらいトイレに行くとすると、2~3時間に1回の頻度でリフレッシュできます。そうすれば、目の前の欲求に飛びついてしまう、なんてこともこまめに回避できます。
つまり、これからのトイレに求められる役割は、ストレスを解消することで、トイレに「リフレッシュ(身体を整える)」という意味を付加できたらよいと思います。単なる排泄する場所というより、積極的に自身を心と体を整える場所です。そう考えると、照明、温度、湿度、香り、色、音、広さなど、様々な要素を再検討する必要がありますが、トイレの価値が一段と上がると思います。
ということで、自宅のトイレをアレンジしてみてはいかがでしょうか?
今の気持ちを表してみよう!
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