建設現場やイベント会場、災害時には避難所等に設置される仮設トイレ。国土交通省は建設現場の職場環境改善にあたり、快適に使用できる仮設トイレを「快適トイレ」と名付け、普及を推進しています。
今回は快適トイレを積極的に導入している、一般社団法人山梨県建設業協会 業務部業務部長の山本憲一さんと、快適トイレの製造・販売・レンタルを行う、株式会社ビー・エス・ケイ代表取締役の三谷彰則さんにお話を伺いました。(聞き手:NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤)
(左から)三谷彰則さん(ビー・エス・ケイ)、山本憲一さん(山梨県建設業協会)、加藤篤(日本トイレ研究所)
災害が起きたとき、一番に現場に向かうのが建設業
――山梨県建設業協会さんは普段どんな活動をされているのですか?
山本さん(山梨県建設業協会):日頃はインフラ整備環境づくりをするための工事を円滑に行えるよう、国・県に理解を求める活動を行っています。また、災害が起きたとき一番初めに現場に入るのが建設業者です。自治体とも連携し、土砂を取り除いたり、除雪等により、時には、自衛隊などが救助に入るためにも道路等の初動の復旧作業を担っています。
担い手確保のため、トイレ環境のレベルアップに取り組む
――快適トイレを導入された経緯を教えてください。
山本さん:はじまりは、平成10年から建設業労働災害防止協会 山梨県支部で行ってきた「オレンジ隊」の活動です。「オレンジ隊」は女性目線で建設現場の職場環境をチェックして改善するという活動を行っており、トイレ環境の改善にも取り組んできました。
当時、山中の現場では仮設トイレや手洗い設備が設置されていないことも珍しくない状態でした。トイレや手洗い設置するようにお願いするところから始め、タオルやハンドソープ等と徐々にレベルアップを図ってきました。
――「快適トイレ」が登場する前から、トイレの改善に取り組まれていたのですね。
山本さん:建設業は担い手不足が喫緊の課題です。家庭や街なかではきれいなトイレが当たり前になっているのに、建設現場のトイレだけがグレードダウンするという状況を改善しなければ、女性や若者が就労するようにはならないという危機感がありました。
――平成28年に国交省から快適トイレが発表されたときはどうでしたか?
山本さん:これまで地道に積み重ねてきたことが地域全体に広がるのではと期待しました。当初は流通している快適トイレが少なく、どれを選べばいいのかわからないという戸惑いもありましたが、ビー・エス・ケイの三谷さんから快適トイレにかける思いや、設備の工夫について伺い、実際に快適トイレ内に入ってみることで、自信を持って導入を進めていけるようになったと思います。
明るい・頑丈・安心して使える快適トイレ
――具体的にどんな点がよかったですか?
山本さん:トイレ内が明るくきれいという点です。照明が点灯していないときでも天井から光が入るため明るいですね。また、壁が頑丈で、ドアを開閉するときもガタつきがないため安心感がありました。
三谷さん(ビー・エス・ケイ):自動車のバンパーなどに使用される製法を、国内の仮設トイレメーカーで唯一採用しています。強度や気密性が高く、衛生的な防臭設計となっているため、頑丈で耐久性に優れていると評価をいただいています。災害時のことも考え、照明がつかない時にも室内の明るさが確保できる点にはこだわっています。
――鍵もしっかりかかりますね。かつて被災地の避難所で仮設トイレについてヒアリングしたとき、外側からドアを強く揺さぶられて怖かったという声を聞いています。
三谷さん:弊社の製法なら隙間のない構造にすることができるため、扉がピッタリと締まり施錠ができます。外から強くドアを揺さぶっても、鍵が外れる心配はありません。
山本さん:鏡とフックがついているのも良いですね。現場の女性たちからも要望として上がっていました。
三谷さん:鏡、手洗い、フックは、開発当初から標準仕様で設置しています。よく「女性のためのトイレ設置を」といいますが、女性が使いやすいトイレは男性も使いやすいはず。すべての人が快適に使えるということを大切にしています。
山本さん:水の補給がしやすいのも現場で使いやすいと思いました。
三谷さん:洗浄水を入れる注ぎ口と、汲み取り口がトイレの背面にあるので、水の補給と汲み取りがしやすいと思います。汚水タンクの容量も450Lとワンボックス型では業界最大級で、汲み取りが頻繁にできない環境のときも安心です。
いいトイレを設置すると意識が変わる
――快適トイレの導入で、建設現場に変化はありましたか?
山本さん:以前はトイレを我慢したり、コンビニのトイレを借りに行ったりという状況があったと思います。職場のトイレを安心して使えるということは、仕事をする上で大きな変化だと思います。
三谷さん:私は「トイレロスをなくそう」ということを訴えています。せっかく費用をかけてトイレを調達しても汚い、臭い、和式などの理由で避けられてしまえば、トイレがあるのに「ない」のと同じになってしまいます。
山本さん:いいトイレを設置すると、トイレに関心を持つ人が増え、きれいに使おうという意識も生まれますね。色々なことに配慮されている現場はトイレもきれいに使われています。掃除はもちろん、予備のトイレットペーパーがあったり、花が飾られていたり。「仕方なくトイレに入る」ではなく「こんなトイレなら入りたい」と思わせる配慮が行き届いています。
――トイレが職場の雰囲気を表しているのですね。
三谷さん:建設現場以外も同様です。たとえばキャンプ場ではトイレが汚いという不満があると、リピーターにならないそうです。あるキャンプ場では、来場者の苦情の9割がトイレに関することだったと聞いています。トイレは「また来たい」と思うかどうかの基準になっています。
排泄を我慢する人がいない社会を目指す
――今後の展望について聞かせてください
三谷さん:誰もが当たり前にきれいな仮設トイレを使える社会を目指したいですね。特に災害時はトイレに行きたくないために、水分や食事を控えて体調を崩す方もいらっしゃいます。災害時に快適トイレが設置されるためには、建設現場で快適トイレが普及していることが必要になります。
山本さん:快適トイレなど職場環境の改善に加え、生産性向上を目指していきたいです。特に女性からは妊娠、出産、子育てなどに柔軟に対応できる働き方が求められています。ICT活用による情報共有システムや遠隔での現場立ち合い(遠隔臨場)など、新しいツールも活用し、効率のよい働き方を実現していきたいです。
また、山梨県は災害が少ないといわれてきましたが、2022年8月には線状降水帯による豪雨で道路が被害を受けました。今後は過去に例のない災害が起きる可能性も考え、平時には必要なインフラ工事を推進するとともに、災害時にはいち早く復旧工事ができるよう態勢を整えていきたいと思います。
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