【はじめに】便秘で苦しむ人を減らしたい
便秘はよくある症状ですが、他の消化器疾患と比較してあまり注目されていません。さらに子どもの便秘に関する研究は、世界的にも少ないのが現状です。
便秘は腹部膨満感や腹痛で生活の質(=QOL)が悪化します。また、強い腹痛(=急性腹症)を生じる場合もあります。私は消化器科医として、便秘を原因とした急性腹症で救急外来に受診する(もしくは搬送される)患者さんをたくさん診ていました。この経験から、便秘で苦しむ人を減らしたいと考え、小児を対象とした便秘の予防に関する研究を行いました。この理由は、小児期に便秘であった子どもは、成人期以降も便秘が続きやすいためです。
便秘は食物繊維・運動不足などと関連
子どもの便秘研究では、野菜や果物などの食物繊維の摂取不足、運動不足、心理的ストレスが便秘と関連することが報告されています。
しかしこれまでの研究は、すべて横断研究による分析です。横断研究とは、調査が一時点のみで便秘のある子と無い子の生活習慣を比較し、便秘の原因を予測するものです。
例えば便秘の子に運動習慣が少ない、心理的ストレスが多いことが分かったとします。運動不足や心理ストレスが便秘の原因かも?と推測します。しかし実際は反対かもしれません。つまり、便秘のため運動しない、ストレスが多いのかもしれないのです(因果の逆転といいます)。この因果に関しては横断研究では判断できないのです。
そこで私は、私の所属する講座が実施した「富山出生コホート研究」のデータを活用し、縦断研究を行いました。縦断研究は一時点ではなく、特定の対象者について調査を繰り返す研究で、便秘の新規発症に対する生活習慣の影響が分かります。縦断研究の結果は(理論的に)因果の逆転がみられないため、横断研究よりも質(「エビデンスレベル」といいます)が高いとされています。
富山出生コホート研究とは
この研究では平成元年度生まれで富山県内に在住した全児童(約1万名)を対象とし、生活習慣や家庭環境と児童の健康への影響について調査しました。調査は3年ごとに繰り返し実施されました(1989-2005年)。
今回の便秘研究では、食生活に関して多くの項目を調べた小学4年生時(第3回)と中学1年生(第4回)のデータを用いました。
第3回の9,378名から分析に必要な質問項目で回答が無かった児童と小学生時点ですでに便秘であった児童を抜いた7,858名を追跡し、最終的に5,540人(追跡率 70.5%)を分析対象としました。(図1)
研究の目的は、どんな生活習慣の生徒が便秘のリスクが多い(発症しやすい)のか?を明らかにすることでした。
【結果】朝食抜き、運動習慣がなくなるとリスク上昇
中学1年生までの3年間に全体の4.7%(男子2.7%、女子6.8%)が便秘(排便が3日に1回以下)を発症しました。次に、統計的な分析(ロジスティック回帰分析)から、危険度を算出しました。危険度はオッズ比(OR)で示され、OR=1.0を基準として高いほど危険度が高いことを示します。
分析の結果、便秘発症には果物摂取不足、心理的ストレスが多いことに加え、小学生時代から朝食を抜くようになった(OR=1.83)、運動をする習慣がなくなった(OR=1.56)ことが有意に便秘のリスクを上昇させることが分かりました。(図2)
リスク因子として、食物繊維不足や心理ストレスの影響は予想された通りでしたが、朝食や運動習慣が無くなることもリスク因子であることが初めて示されました。
体内時計における朝食の重要性
小児便秘の対策として、「規則正しい生活と食習慣」が小児の便秘症診療ガイドラインにも推奨されていますが、これは専門家の一般的な意見からの推奨でした。
今回の結果は、「子どもの便秘予防には規則正しい生活が重要」であることを示す、科学的なエビデンスとなります。実際に(小児ではありませんが)睡眠不足や夜勤、交代勤務者や時差の影響を受ける客室乗務員において便秘が多いことが知られています。
生活習慣が重要である理由として、体内時計と臓器の関係があります。脳には体内時計の役割を果たす機能があることが知られています。近年、全身の臓器や細胞レベルでも体内時計(時計遺伝子clock gene)が発見されています。それにより、胃腸や肝臓なども自身が持つ時計の影響を受けているようです。
便秘予防には朝の日光と朝食が重要
日常生活において、朝の日光で体内時計がリセットされ、朝食摂取の刺激によって1日の中で一番強い大腸の蠕動(ぜんどう)が生じます。この蠕動により、排便が促されます。ほぼ決まった時間に起きること(休日の起床の遅れを1時間以内にする)、朝食を摂ることが便秘予防には重要なのです。このため、生活リズムがずれること、朝食を抜くことは腸の蠕動が弱まってしまうことになります。
運動の重要性
食物繊維の摂取と並び、運動も便秘予防に重要であることが知られています。これは運動が腸の蠕動を促進するからです。海外では、成人を対象(これも小児ではありませんが)に、マノメトリーというチューブを肛門から直腸に挿入し、直腸の内圧を測定した研究があります。蠕動圧の日内変動を測定した結果、先ほどの起床後、朝食後に加えて、運動後にも蠕動は強くなり、排便が促進されることがわかりました。このため運動習慣が無くなることは、強い蠕動が起こりにくくなってしまうのです。
【おわりに】便秘を軽視しないで
便秘予防には、これまでにも知られている食物繊維の十分な摂取や心理的ストレスの軽減の他、規則正しい生活で朝食を摂ることと運動習慣の継続が重要です。
コロナ禍で子どもたちのネット・ゲーム利用が増え、生活習慣の乱れや運動時間が減っていることが予想されます。便秘を軽視せず、子どもの時期から規則正しい生活習慣を心がけてください。
今回の研究論文
Yamada M, Sekine M, Tatsuse T, Fujimura Y. Lifestyle, psychological stress, and incidence of adolescent constipation: results from the Toyama birth cohort study. BMC Public Health. 2021;21(1):47. Published 2021 Jan 6. doi:10.1186/s12889-020-10044-5
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