災害時のトイレ

防災トイレフォーラム2023|これからの防災~災害時のトイレ対策を中心に~

日本トイレ研究所
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Japan Toilet Labo.

2023/12/21

2023年9月29日(金)東松島市コミュニティセンターにて、「防災トイレフォーラム2023」を開催いたしました。

西村文彦氏(内閣府政策統括官(防災担当)付 参事官(避難生活担当)付 企画官)にご発表いただきました「これからの防災~災害時の避難所におけるトイレ対策を中心に~」について、以下に要旨をご紹介します。

避難所におけるトイレの実情・課題

阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害において、水が流れないトイレを使用した結果、あっという間に便器内は大小便で満杯となり、衛生面で問題が発生しました。そのような状況の中では仮設トイレの設置が考えられますがが、東日本大震災のときに仮設トイレが避難所に行きわたるまでに要した日数を、自治体対象に確認した結果、3日以内と回答した自治体はわずか34%で、最も日数を要した自治体は65日と、2カ月以上の期間を要したという調査結果があります。
平成30年に内閣府で一般市民を対象として「最低限、この条件が整っていないと避難所には行かない」と思われる項目を調査した結果、トイレの数や流すための水の確保が、飲料水や食料の確保に次いで上位でした。
熊本地震の際の調査でも、避難所トイレにおける衛生面の不安や数の不足、利用ルールが不明確、和式便器が多いことなどの課題が挙げられました。
避難所におけるトイレの課題を整理すると、「数の確保」、「質の確保」、「衛生的な運営」が挙げられます。

避難所におけるトイレの課題(画像作成:西村文彦氏)

避難所における良好な生活環境の整備に向けた取組み

東日本大震災を経て、法制度上の避難所の位置づけが大きく変わりました。東日本大震災以前は、避難所は災害対策基本法上、明確な位置づけがなされていませんでしたが、東日本大震災の後、同法が改正され、避難所の指定や避難所の生活環境が規定されました。
このような法改正を踏まえて、内閣府では、自治体における避難所運営の参考になるように指針やガイドラインを作成しています。「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」と、より具体的な対応を示す「避難所運営ガイドライン」、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」の3つのガイドラインを作成しました。これらの指針やガイドラインをもとに多くの自治体が生活環境の向上に向けた取組みを進めており、先進的な事例を集めた事例集も作成しています。また、マンホールトイレの整備を促すために、国土交通省が作成した「マンホールトイレの整備・運用チェックリスト」を、国土交通省と連携し、地方公共団体に周知しています。

避難所の環境改善(画像作成:西村文彦氏)

「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」概要

本ガイドラインでは、避難所におけるトイレの問題は、多くの健康被害と衛生環境の悪化をもたらすことから、強い問題意識をもって取り組むべきということを基本的な考え方としています。
災害時にトイレを確保する上で様々な制約を受けることを認識しておくことが必要であり、平時から部局横断的な体制づくりや、災害時のトイレ確保・管理計画の作成が重要です。
災害用トイレの確保・管理にあたっては、トイレの設置場所や防犯対策等について、障害者や女性の意見を積極的に取り入れるとともに、障害者用のトイレを一般用とは別に確保するよう努める必要があります。
トイレの数についても目安を示しており、災害発生当初は避難者約50人当たり1基、その後、避難が長期化する場合には約20人当たり1基、またトイレの使用回数は1日5回を一つの目安として確保計画を作成することが望ましいです。
災害用トイレは、時間経過や被災状況に応じて、複数のタイプを組み合わせることにより、切れ目なくトイレ環境を確保する必要があります。
衛生管理の点においても、避難所のトイレは大勢の人が使用するため、普段以上に配慮が必要になります。トイレの衛生管理は、避難者の命を守ることに直結するため、水や食料の確保と同様に、避難所開設時から取り組まなければなりません。

まとめ

災害時における避難所のトイレの確保・管理は極めて重要な課題であり、ライフラインと同様に、被災者の命を支える社会基盤の一つであると認識することが重要です。そのため、市町村においては、関係部局が連携し、平時より様々な検討を具体的に進め、体制・計画を作り、必要に応じて、施設整備・改修、物資の備蓄、企業との協定などについて推進することが期待されます。都道府県においても、衛生管理や物資調達等において、積極的に市町村の取組みに協力することも重要です。
また、行政のみならず、住民の取組みも重要であることから、自治体における備蓄状況や対策について、住民とも情報共有し、災害時におけるトイレの自助・共助の取組みを推進することも必要です。

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「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指します。

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