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便秘対応のウソ・ホント どこからが便秘?食物繊維や便秘薬は?

味村 俊樹
味村 俊樹
自治医科大学 教授

2020/11/03

便秘を診療する医師に向けた日本で初めてのガイドライン、「慢性便秘症診療ガイドライン」が2017年に日本消化器病学会から刊行されました。その作成委員を務めた、味村俊樹先生(自治医科大学 教授)に、便秘についての話を聞きました。

味村俊樹先生

毎日出ていても便秘の可能性はある

――便秘とは、そもそもどんな状態なんでしょうか?

味村:皆さんが便秘と聞いてイメージするのは排便の回数が少ないことだと思いますが、決して回数だけが基準ではありません。毎日排便があっても、便の量が少なかったり、強くいきまなくてはならなかったり、残便感を感じることが多ければ、便秘の可能性があります。便秘とは、「本来体外に排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態」といえます。つまり、排便時にすっきり感があるかどうかが重要です。

便秘イコール病気という意識はまだまだ浸透していませんが、便秘も他の病気と同じく、治療をすることで症状を改善することができます

「慢性便秘症診療ガイドライン」 をもとに日本トイレ研究所が作成

便秘にはタイプがある

――大人の便秘には、どんなタイプがありますか?

味村:便秘は原因によっていくつかのタイプに分けられます。

20代~50代に圧倒的に多い便秘の原因は、①大腸の動きは正常で食物繊維の摂取量が不足していると思われる「大腸通過正常型便秘症」か、②大腸の動きが弱いために便が運ばれるのに時間がかかる「大腸通過遅延型便秘症」という状態です。ともに排便回数が少なくなる「排便回数減少型便秘症」に含まれます。

それに対して、毎日排便があるのに排便する時に出すのに苦労したり残便感で困る「排便困難型便秘症」もあり、これは、③硬い便が原因の場合と、④軟便でも排便に苦労する「便排出障害」という状態に分けられます。②や③には便秘型過敏性腸症候群も含まれます。

①の場合は、「大蠕動(だいぜんどう)」という便を直腸に送り出す動きは正常に起こっていますが、摂取する食物繊維の量が少ないことが原因とみられます。出すべき便の量が溜まるのに時間がかかるので排便の回数が減少しますし、腸内で水分がどんどん吸収されて便が硬くなるので、排便に苦労すると同時に残便感の原因にもなります。

一方、②の「大腸通過遅延型」の便秘は、腸の大蠕動の回数が少なかったり、程度が弱かったりすることが原因です。排便回数が減ったり、便が硬くなる症状は①と同じですが、おなかが張ったり、腹痛が起こることもあります。

この2つのタイプは原因も対処法も異なるのですが、症状が似ているため、問診や腹部などの診察だけで判断するのは難しい場合が多いのです。

――便秘のタイプをどうやって判断するのでしょうか?

味村:判断するには「大腸通過時間検査」という検査を行います。検査といっても簡単なもので痛みはありません。小さなマーカーが20個入ったカプセルを自宅で飲んでもらい、5日後にレントゲンを撮影します。マーカーは便と一緒に腸内から出ていきますが、撮影時にマーカーが腸のなかに何個残っているかで、腸が正常に動いているかを判断します。

ただ問題は、この検査はまだ保険診療になっておらず研究目的でしか行えない点で、今後解決すべき大きな課題です。

便秘の対処法は原因によってちがう

――食物繊維は便秘に効果がありますか?

味村:「食物繊維をとらないと便秘になる」とはいえますが、「便秘の原因は食物繊維の不足だけではない」というのが事実です。

①のタイプのように、腸の動きに問題がない便秘の場合は、食物繊維の摂取量を増やすことでかなりの人の症状が改善することがわかっています。

一方、②の「大腸通過遅延型」の便秘に代表されるように、腸の動きそのものに異常が起こっている場合は、食物繊維を摂る量を増やしても症状が改善しなかったり、摂りすぎると悪化する場合もあります。この場合は、便秘薬で治療をしていきます。

ただ、厚生労働省の調査によると、日本人の食物繊維の摂取量は女性も男性も圧倒的に不足しています。

食物繊維は脳卒中や糖尿病、それに肥満など、生活習慣病の予防に効果があることも分かっており、健康のために意識して摂ったほうがいい栄養素のひとつといえます。

これは海外の調査結果ですが、便秘の人はそうでない人に比べ、10年後の生存率が12%低かったという結果があります(下図)。

もちろんこの12%の人は、便秘が直接の原因で死亡したわけではありません。おそらく心疾患や脳卒中などの病気が原因と考えられますが、そういった病気になる人の食事や生活習慣は、同時に便秘にもなりやすかったと推測されます。

慢性便秘症がある人(622人)と、ない人(3311人)では10年後の生存率に12%の差があった。対象者の年齢は54歳±18歳で、女性が52%(出典:Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32.)

食事や生活習慣の指導は、慢性便秘症の治療でも基本です。

特に患者さんが若く、腸の動きが正常な場合は、将来の健康寿命にも影響しますので、時間をかけてでも食習慣を改善して、適切な量の食物繊維を摂るようにするのが大事です。大人になってから食習慣を変えるのはなかなか大変なので、子どもの頃からの食育は大切だといえます。

まずは食物繊維を2~3か月試してみる

味村:慢性便秘症患者の中で食物繊維不足が原因の人は約4割とされ、多いことは確かなので、まずは食物繊維を摂る量を増やしてみるのがいいと思います。その際は、なにか1つの食品を沢山食べるのではなく、野菜、海藻類、きのこ類、穀類など、色々な種類の食品を摂るのがポイントです。

2~3か月試してみてよくならなかったら、食物繊維の不足ではなく、大腸通過遅延など別の原因がある可能性があります。そういった場合は便秘薬を試したり、病院を受診することをおすすめします。

便秘薬が「くせになる」は誤解

――便秘薬は「くせになる」というイメージがありますが、本当でしょうか?

味村:それはよくある誤解ですね。患者さんから市販薬であれ処方薬であれ「便秘薬を飲むと毎日ちょうどいい便が出るのに、止めると出なくなるのは薬がくせになってしまったせいですか?」とよく聞かれます。

しかしこれは、大腸通過遅延型の便秘という病気に対して、適切に薬を飲んでいたから便が出ていたのに、薬を止めたことでまた症状が出てきたという状態です。糖尿病や高血圧でも、薬で血糖値や血圧が安定したのに、服薬を止めると数値がまた悪化しますよね。便秘の薬だけが「くせになる」というのは誤解です。

もちろん、決められた量以上の便秘薬を自己判断で飲んでいる場合は別です。さまざまな原因で起こっている腹痛を便秘のせいだと思い込んで、下痢を起こしてもさらに便秘薬を飲んでしまうケースが時々ありますが、本来は便秘状態ではないことも多いんです。

――必要な薬でも、ずっと飲んでいると量が増えたりすることはありませんか?

味村:60代以上の方など、年齢によって腸の動きが低下したことで薬が増えることは若干ありますが、それは他の病気でも同じだと思います。服薬が必要な方が適切に飲んでいれば、長期間飲み続けたからという理由で薬の量が増えていくということはありません

便秘薬を試すなら「非刺激性」を

――「非刺激性」と「刺激性」の便秘薬の違いは何でしょうか?

味村:非刺激性の便秘薬は腸の動きには作用せず、便に水分を引き寄せて、便が流れるスピードを早くすることで排便の回数を増やします。直接的に排便を引き起こす大蠕動は、自律神経のはたらきによって起こります。大蠕動が一番起こりやすいのは食後ですので、トイレに行けるタイミングが多いと思います。非刺激性の便秘薬は毎日飲んでもかまいません。

刺激性の便秘薬は、腸の動きに作用して強制的に大蠕動を起こします。腸が動くために腹痛が起きたり、本人にとって不都合なタイミングで便意が出ることがあるので、一時的な使用にとどめるのが良いと思います。

処方薬では基本的に非刺激性の便秘薬を出しますが、患者さんの状態をみながら一時的なレスキューとして刺激性の便秘薬を出すこともあります。ただし刺激性は薬の特性からいって、毎日飲む必要はありません。

――市販薬を選ぶ場合はどうでしょうか?

味村:もし市販薬で対処する場合は、非刺激性の酸化マグネシウムを試してみるのが良いと思います。漢方は自然に近いというイメージを持たれる方が多いですが、刺激性の成分が含まれるものが多いので、腹痛が起きることがあります。ただし、酸化マグネシウムは効果が出始めるのに3~4日かかるので、効果が安定するまでのレスキューとして刺激性下剤を使用するのは構いません。

便秘治療において、食事や生活習慣は基本ですが、便秘の原因によってはそれだけでは改善しない場合があります。本日は排便回数減少型便秘症についてお話しましたが、またの機会に排便困難型便秘症についてご説明したいと思います。いずれにしろ、困っている場合は、「便秘ぐらいで」などと思わず、排便外来など専門の病院をぜひ受診してみてください。

味村先生が出演する、オンラインイベント
2020年11月15日(日) 「意外と知らない!便秘のはなし」

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味村 俊樹
味村 俊樹
自治医科大学 教授

1998~2000年に英国St Mark’s(セントマークス)病院で排便障害を診療、研究。2008~2013年:高知大学において骨盤機能センターを新設し、センター部長、特任教授。2013~2018年:三慶会・指扇病院(埼玉)において排便機能センターを新設。2018年から現職。20年間にわたり、排便障害の診療、研究、啓発活動に取り組んでいる。

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