便秘を改善するために多くの人がまず取り組むのが食事。管理栄養士として食事指導にかかわる春日千加子先生(女子栄養大学生涯学習講師・栄養学博士・管理栄養士)に食事と排便の関係について話を聞きました。
便秘改善には食事と生活の両方が大事
――「便秘に効く」といわれる食べ物を試しても、なかなか効果が実感できないという方も多いと思うのですが、なぜなんでしょうか?
春日先生(以下、敬称略):「〇〇を食べれば便秘が改善して、腸内環境が良くなる」という情報はたくさんありますが、何か1種類のものを食べても、改善には結びつかないことが多いですね。食事に気を遣うことはいいのですが、食事と生活、その両方を整えてはじめて、いい排便につながります。
――便秘だとつい、何を食べればいいのかとばかり考えがちでした。生活を整えるというのは具体的にどんなことでしょう?
春日:睡眠、運動、リラックス、体を温めることなどです。これらは関連があって、質の良い睡眠が、朝型の生活習慣をつくり、排便に大切な朝の時間を少しでも多く摂ることができるので、スムーズな排便に役立ちます。また、朝型にすると、1日の生活を活動的に過ごせるので、運動は、腸を動かすことと、全身を動かすことを意識してみてください。
腸を動かすといっても特別なものではなく、ウォーキングでも腸は動きますし、ストレッチやヨガもおすすめです。全身を動かすことで血行が良くなり、リラックスにもつながります。また、日中に運動することにより、体がほどよく疲れて、よい睡眠にも繋がります。
そして大切な食事については、基本的ですが必ず守ってほしいのは朝食を抜かないこと、水分をしっかりとることです。朝起きたらまずはコップ1杯の水分を摂ること、これだけでも腸が動きやすくなります。さらに朝食を摂ることで、排便を促し、体内時計のリズムも整えます。食事と生活リズム、この両輪を回すことで、自律神経が整い、自然にいい排便につながります。
食物繊維は善玉菌のエサに
――いい排便には食物繊維がいいというイメージがありますが、本当でしょうか?
春日:もちろん食物繊維には腸内環境を整えるはたらきがあります。腸内で乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる善玉菌(プロバイオティクス)のエサになるのが食物繊維です。食物繊維は、善玉菌を増やして活性化させ、腸内環境を整えてくれます。善玉菌のエサになる栄養素はプレバイオティクスと呼ばれていて、食物繊維のほかにはオリゴ糖があります。
最近は、善玉菌とそのエサになる食物繊維を一緒に摂ることで、腸内環境への相乗効果を期待する食事も注目されています。たとえばヨーグルトとキウイなどの組み合わせですね。
また、食物繊維には血糖値の上昇を緩やかにしたり、コレステロールの吸収を抑えるなど、多くの生理作用があるので、生活習慣病の予防にも良いということが分かっています。
―積極的に摂りたいですが、自分の食生活を振り返ると不足しているような気がします。
春日:実際、ほとんどの方は不足しています。日本人の食物繊維の平均摂取量は1日あたり約14gという調査結果がありますが、目標量は、成人(18~64歳)では1日あたり女性18g以上、男性21g以上(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」)。女性も男性もまったく足りていない状況です。しかも、理想の摂取量は実はこの目標量以上とも言われています。
――もし食物繊維を摂らないとどうなるんでしょう?
春日:肉や魚中心で、野菜や穀物が少ない食事になると、食物繊維が不足して、たんぱく質や脂質に偏った食事につながり、生活習慣病にかかりやすくなります。また便秘がちになり、腸内環境が悪化した状態が続くと、結果的に大腸がんなどの発症リスクが高くなる可能性もあります。
水溶性と不溶性、どちらも腸内環境に良い
――食物繊維には水溶性と不溶性がありますが、どんな違いがありますか?
春日:腸内環境を整える作用は、不溶性と水溶性、どちらの食物繊維にもあります。不溶性は水分を吸収して膨らむことで便のかさを増して、それによって大腸が刺激されて、便が出やすくなります。
不溶性食物繊維が多い食材は、玄米などの穀類、さつま芋などのいも類、豆や根菜類などです。
一方、水溶性も便のかさを増やしますが、水を含んでゲル状になるので、便をやわらかく、出しやすくします。
水溶性食物繊維が多い食材には、キウイやバナナなどの果物、もち麦、わかめなどがあります。果物は、よく熟したほうが水溶性食物繊維は多くなります。バナナなら黒い点が出てからのほうが多くなるということですね。
――水溶性と不溶性を食べ分けることはできますか?
春日:野菜や果物など食材にはどちらも含まれているので、水溶性と不溶性を厳密に食べ分けるのは難しいと思います。最近は、糖尿病予防の観点からも水溶性食物繊維が注目されていますが、食べ分けるというよりは、水溶性の方が不足しやすいので、「水溶性食物繊維が多く入っているものを積極的に摂る」と考えるといいと思います。
「野菜たっぷり」だけでは不十分
――では実際にどんな食生活をすればいいですか?
春日:食物繊維といえば野菜と思いがちですよね。確かに野菜は食物繊維が豊富なものが多いですが、実は野菜だけで十分な量を摂るのは難しいんです。厚生労働省がすすめる野菜の摂取目標量は1日350gですが、それだけでは食物繊維の量が足りません。
野菜はたっぷりとってほしいのですが、主食の穀物や、海藻、きのこ、豆、果物など様々な食品から、食物繊維を摂るのがおすすめです。これによって、水溶性と不溶性のバランスもよくなります。
白米にも100g当たり0.5gは食物繊維が含まれていますが、もち麦や雑穀を混ぜることでさらに、増やすことができます。ライ麦や全粒粉を使ったパンなど、精製度が少ない穀類を多く摂ることがおすすめです。海藻類やきのこ類も普段の食事に取り入れやすいと思います。
――忙しいとつい主食中心になりがちです。続けるために工夫できることはありますか?
春日:常にパーフェクトな献立を目指すのは難しいですよね。とにかく続けることが大事なので、最低限取り入れるとしたら、1食のなかで1皿は野菜を食べましょう。そして、1日メインのつけあわせに野菜を添えたり、汁物で取り入れてもいいと思います。付け合わせや汁物にきのこか海藻類を入れるとさらに良いかと思います。
でも腸内環境を整えるためには、本当は、食物繊維だけを摂っていればいいというわけではなく、主食と肉・魚もバランスよく食べるのが大事です。また、善玉菌を含む発酵食品は1日に1回は摂ることをお勧めします。
朝食ならトーストにチーズをのせて、主食とタンパク質が、ヨーグルトに果物を入れると善玉菌と食物繊維もとれます。抜けがちなのがお昼です。麺類をよく食べるなら、油揚げや卵でタンパク質を、きのこ、ねぎ、わかめをトッピングして食物繊維を足してみてください。
外食やコンビニなら、野菜のおかずをプラス1品加えることを意識してください。最近はコンビニでも野菜類のほか、食物繊維の含まれたおかずが増えています。
また、若い女性に注意してほしいのが、野菜や果物、ヨーグルトなどだけの食事です。ダイエットのために糖質中心に、エネルギーを控える人が多いですが、エネルギーやタンパク質が不足して、体が冷えたり、不調の原因になったりするおそれがあります。主食をとらないことで便のかさを増やす穀物の食物繊維がかえって不足することもあります。
食物繊維を朝食に摂ると、血糖値上昇を抑える効果も
――食物繊維を摂るといい時間帯などはありますか?
春日:まずは、朝食を摂ることそのものが排便に効果があるばかりでなく、体内のリズムを整えて代謝を高めてくれます。さらに、朝食にしっかり食物繊維を摂ると、その後に食べる昼食でも血糖値が上がりにくいことがわかっており、1日の血糖値の上昇を緩やかにする効果があるとも言われています。
ただ食事は個人差や好みが大きく影響します。朝食がパン派の人ならヨーグルトに果物やトマトを、ご飯派の人なら納豆やワカメと野菜のみそ汁などなど、自分に合う、続けやすい食生活のなかで食物繊維を摂ることを意識するのがいいと思います。
――自分に合った食生活を続けるには、排便の記録をつけるのもいいでしょうか?
春日:いい便が出た時の自分の生活を記録するといいですね。逆に便が出ない日が続いた時の生活も記録しておくと、どんなときに気をつけるといいかが分かります。
私が患者さんに食事指導をするときも、食事や体重の記録と一緒に、排便や運動、睡眠、ストレスなども記録してもらっています。しばらく記録すると自分の傾向がつかめるので、気をつけるタイミングなどが分かるようになります。
食事については、食物繊維をたっぷり摂ることを意識したうえで、無理せず、体が喜ぶものを、体が喜ぶ時間帯に摂るというのが腸にいい食生活を続けるポイントだと思います。
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