前回は、北海道胆振東部地震における札幌市のマンションでのトイレ事情でした。
簡単に言うと「停電すると、多くの水洗トイレは使えない」「水道管から直接つながっている蛇口(給水口)は貴重」ということです。そして、停電時におけるマンションでのトイレの教訓を5つにまとめて紹介させていただきました。
今回は、避難所となった札幌市立美しが丘緑小学校での取り組みをご紹介させていただきます。
プールの水がなくなっていた!
美しが丘緑小学校には、発災日(2018年9月6日)の昼過ぎから避難者が集まり始め、夕方までに46名が避難してきたとのことです。
停電すると、多くの水洗トイレが使えなくなることは前回書きました。この小学校も断水により、トイレに流す水が出なくなりました。
「小学校なら、プールの水があるのでは?」と思った方、するどいです。
美しが丘緑小学校にもプールはあります。でも、なんと、前日の台風でプールの屋根が壊れ、その修繕のためにプールの水を抜いてしまっていました。つまり、プールは空っぽだったのです。普通では思いもよらないことが重なるのですね…
避難所のトイレの悩みとしては、「避難者が集まってくる、建物は大丈夫、しかし水がない、もちろん仮設トイレもない」です。
このとき、備蓄物資として「携帯トイレ」があることに先生が気づきました。
携帯トイレとは、一言でいうと、うんちやおしっこを入れる袋です。
使い方は、普段使っている洋式トイレの便器にとりつけて使用します。
袋の中には吸収シートが入っているタイプと使用前や後に凝固剤を入れるタイプがあります。
詳しくはこちらから。
携帯トイレのいいところは、使い慣れたトイレ空間を利用出来ることです。わざわざ外に行かなくてもいいし、建物内のトイレは男女別になっています。そして、鍵もかかるので安心ですよね。
真っ暗なトイレは使いたくない!
1Fの児童用トイレに携帯トイレを取りつけて、みんなで使用したとのことです。
なぜ、1Fの児童用トイレが選ばれたかというと、窓があるので昼間は自然光が入り、明るかったからです。こういうのってとても大切です。みなさんも小学校のトイレに行ったら、窓があるかどうかをぜひチェックしてみてくださいね。
ちなみに、当初予定していた体育館奥のトイレは、男性用・女性用の他に多目的トイレもありましたが、窓がなくて真っ暗だったため、ほとんど使用されませんでした。
車いす利用者のトイレはどうする?
避難者のうち車いす利用者には、通常の避難スペースである体育館とは別に段差のない福祉スペースを用意しました。トイレも一般の避難者とは別とし、福祉スペース横にパーテーションで区切った空間を作り、そこに簡易トイレを設置して、携帯トイレを取りつけて使用しました。避難している場所のすぐ隣にトイレをつくることで、車いす利用者も安心してアクセスできるのがメリットです。
この避難所では、2日間で延べ100人程度の人が携帯トイレを使用し、比較的きれいに使うことができました。これって、ものすごく貴重な好事例です。
おそらく見るのも初めてだったであろう携帯トイレを不特定多数の人がルールを守りながら使ったのです!しかも、用を足した人が次の人が使うための携帯トイレを取りつけてからトイレを出るという流れまで出来ていたそうです。もうワンダフルですねー。
使った後の携帯トイレは、どうしたらいい?
使った後の携帯トイレの保管方法も重要です。使用済み携帯トイレを、まずトイレ内の段ボール箱に入れて、ある程度溜まったら、今度は廊下にあるポリバケツに移します。さらにポリバケツが一杯になったら塵芥庫に移す、という方法をとっていました。
最初は、校長先生、教頭先生、用務主事さんが中心となって運用していたのですが、途中からは避難者の方々にバトンタッチして、運用しました。
一方で、課題や改善すべきことも明らかになりました。
まず、携帯トイレの使い方をみんなに周知するためのツールがなかったことです。災害時の混乱状況の中、パッと見て分かりやすいポスターのようなものが必要ですね。この小学校では、応急対応として先生が手書きのポスターをつくって貼りだしたそうです。
避難所で携帯トイレを使う際の教訓とは?
避難所で携帯トイレを使う際の教訓としては、以下の5つです。
①開放するトイレを決めておくこと
②トイレ内の照明を確保すること(自然光が入る窓があるとなおよい)
③携帯トイレの使い方を示したポスターを準備しておくこと
④使用済みの携帯トイレの保管方法を決めておくこと
⑤車いす利用者が使えるトイレ空間を決めておくこと
北海道胆振東部地震におけるトイレ調査レポートはこちら
携帯トイレの使い方の動画はこちら(リンク先下部)
また、「うんちはすごい(新書)」には、災害時のトイレの知恵(自宅編)も記述されていますので、ぜひ参考にしてください。
(この記事はnote「うんちはすごい!」から転載しています)
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