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人生100年時代の排泄問題 第3回|高齢者の排泄問題と災害

高橋 競
高橋 競
獨協医科大学公衆衛生学講座/東京大学高齢社会総合研究機構

2020/05/07

今回は、高齢者の排泄問題と災害について考えてみます。

災害時、排泄状態は悪化する

高齢期の排泄の調子は、日々変化します。食事、水分摂取、身体活動、睡眠、薬、気分、体調などの状態により、良くなったり、悪くなったりするのです。そして、いつもと同じ時間に、同じ場所で、安心して排泄することができなくなると、排泄の状態は一気に悪化してしまいます。

人生のどこかで、私たちの多くは、日常が脅かされる災害を経験します。そんな時でも、排泄をしないわけにはいきません。日本トイレ研究所の調査では、東日本大震災発災後、約7割の方が6時間以内にトイレに行きたくなったと回答しました。長い人生の中で、いつ、どんな災害が襲ってくるかは、誰にも分からないのです。

前々回、高齢期には尿や便を「出せない」問題が増えるとお話ししました。前立腺肥大や脊髄損傷などにより尿を自力で全く出せない場合は、細い管を尿道の先から膀胱に入れて、溜まった尿を出すことが必要になります。これは導尿(どうにょう)といって、腎臓や身体を守るために欠かせない大切な行為です。
災害が起こって、導尿のための清潔な用具や環境が損なわれたとしたら…。用具や環境があっても、導尿をしてくれる人が傍にいなかったら…。災害時、「出せない」問題は命に関わります。

そして、失禁の問題も深刻です。いつもと違う食生活で下痢になる、身体が冷えてトイレが近くなる、いつものトイレが使えなくなる…。高齢期の失禁のリスクは、災害時、さらに高まります。そして、失禁に対する不安な気持ちが、水分摂取を過剰に控えたり、いつもしている運動や活動を制限したり、暗い気持ちになったりすることにもつながり、さらに深刻な健康被害を引き起こすことになります。

災害に備え、できることとは?

このような災害時の排泄問題に対して、まずは自分でできる備えをしておかなければなりません。発災後しばらくは、公的な支援は頼りにできません。排泄に心配のある高齢者は、排泄に必要な物品を多めに備蓄しておくこと、安心して排泄できる自宅以外の場所と移動経路を確認しておくこと、排泄を助けてくれる人をたくさん作っておくことが大切です。「非日常」が「日常」に戻るまでの間を生き抜くために、食事や水分と同じように、排泄についても備えておかなければなりません。

また、ちょっとした「非日常」を積極的に経験しておくということも役に立ちます。例えば、旅行です。私は以前、頸髄損傷になり電動車いすを使って生活している方々に防災意識調査をしたことがあります。その中で、防災のために普段からできることとして浮かび上がったのが旅行でした。旅行の準備は、生活物品の見直しや必要量の把握に役立ちます。そして、旅行先での経験は、普段と異なる環境でいつもの生活を守る練習にもなります。さらに、自分が心地よくいられる自宅以外の場所を見つけられれば、そこは避難先の候補の一つにもなるかもしれません。
(編集注:この記事は新型コロナウイルス感染症の流行前に執筆いただきました。非日常ともいえる状況が続いていますが、ご自宅で災害への備えを見直してみていただければ幸いです。)

皆さんは、旅行先で、便秘になった経験はありませんか?
旅行に行くと、いつもの排泄リズムが崩れがちになります。食べ物や環境の変化に加え、高揚した気分が続くという精神面の影響もあるのかもしれません(排泄にはリラックスが大切です)。

旅行先でも、いつもの排泄リズムを大切にしてみてください。携帯トイレ※を使ってみるのもおすすめです。「非日常」での排泄経験は、災害時にもきっと役に立ちます。

※携帯トイレというのは、断水等で水が流せなくなった便器にとりつけて使用する災害用トイレのことです。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

高橋 競
高橋 競
獨協医科大学公衆衛生学講座/東京大学高齢社会総合研究機構

理学療法士やJICA専門家として国内外におけるリハビリテーション業務に従事した後、東京大学大学院医学系研究科において博士号(保健学)を取得。現在は、障害者や高齢者の排泄障害、フレイル予防、健康長寿のまちづくり等に関する研究に取り組んでいる。

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