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高齢者の便秘と排泄ケアのポイント

日本トイレ研究所
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Japan Toilet Labo.

2022/08/23

日本トイレ研究所ではトイレや排泄に関する勉強会を開催しています。
今回は、在宅医療・介護における排泄ケアについて高岡駅南クリニック 院長の塚田邦夫先生にお話いただいた一部を抜粋して紹介します。

高岡駅南クリニック院長 塚田邦夫先生(背景は高岡駅南クリニック)

高齢者の便秘の原因は?

便秘は女性がなるものというイメージが強いかもしれませんが、年を重ねると60代以降、男女とも便秘になる人が増えることが知られています。80歳以上になると、便秘の症状を訴える人は、女性より男性が多くなります。(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」)

塚田先生によると、高齢者に便秘が多い背景には、水分の摂取不足による脱水や、便を我慢することによって体内にある便から水分が減り、便が硬くなることなどがあるそうです。

高齢者が脱水になりやすい原因として、次の2点が考えられるそうです。まず1つ目は「筋肉が少なく水分保持能力が低下」していることです。体内の水分は筋肉に蓄えられているため、筋肉量の少ない高齢者は、水分を体にためておく力が弱くなっているからです。2つ目は、夜間などに何度もトイレに行くことや、尿もれを避けるため、「自分から水分制限をする傾向にある」ことです。加えて、口の渇きを感じにくくなっていることも、積極的に水分をとりにくい要因となります。

脱水を予防する水分の摂り方

ではどうすれば脱水状態になることを防げるのか、塚田先生は水分の摂り方にポイントがあるといいます。

塚田先生:「高齢者の脱水を予防するためには、1時間に1回、50mlの水かノンカフェインのお茶を摂取しましょう。3~4時間に1回の一気飲みでは、尿として排出され体に残りません。一度に100ml以上飲んでも、水分は2時間以内に尿として排泄されるのです。ただし、運動前や入浴前、起床直後は、コップ1杯以上の水分を摂ってください。
水分摂取の間隔は2時間以上空けないことがポイントです。また、糖分の入った甘い飲み物(スポーツドリンクやジュース等)は、食欲低下につながるので日常的に飲むのは避けたほうが良いでしょう。明らかに脱水症状があるときは、経口補水液をおすすめします」。

塚田先生:「脱水の症状のひとつとして便秘があり、その改善に適切な水分摂取を中心とした総合的な対応が必要です。便が出ないからといって安易に下剤を使用することはやめ、まず正しく水分をとり、脱水症状がないことを確認した上で、下剤などの対策を検討することが大事です」。

便が硬くならないようにするためには、水分摂取のほかに、便意を我慢しないことも大切です。塚田先生のクリニックでは便意があったら30分以内にトイレに行き、出なければいったんトイレを出て、再び便意を感じたらすぐにトイレに行くよう指導しているそうです。

正しい排便姿勢は前かがみ

(作成:塚田邦夫氏)

排便に関する困りごとで、便秘のほかに多いのが排便時の痛み(排便時痛)です。排便時痛の原因には、排便時の姿勢が悪いこと、いきんだ時に肛門を閉めるくせがついていること、誤った温水洗浄便座の使用方法などがあるそうです。

塚田先生:「正しい排便姿勢は、ロダンの「考える人」のように背中を丸め、軽くかかとを上げ、軽くお腹をへこませる姿勢をして、肛門を緩めるよう意識することです。この姿勢をとることで直腸と肛門の角度が広がり、便が出やすくなります。

温水洗浄便座の誤った使い方に注意

温水洗浄便座の使い方を誤ると、便秘や排便時の痛みなどにつながることがあります。

塚田先生:「排便前や排便中に肛門内に温水を注入して刺激することや、便を出した後に、肛門内に温水を注入して肛門内を洗うことは避けたほうが良いです。肛門は外部から異物が侵入したときには反射的にぎゅっと収縮して異物が入らないようにする反射があります。肛門内に温水を入れるということは、この反射が起こらないよう訓練しているようなものです」。

塚田先生:「反射が起こらないようになると、肛門が緩むべき時に収縮し、収縮すべき時に緩むようになります。つまり便を出そうとしたときには肛門が締まるので便が出ず、強くいきむことによって、排便時痛や頑固な便秘につながります。また、排便後に水様便が肛門周囲に漏れて、便失禁が起こったり、水様便によって肛門の周りの皮膚がただれてかゆみが出ることにつながります」。

このように肛門の収縮・弛緩が思うようにできない場合については、骨盤底筋訓練やバイオフィードバック療法(機器を使用した骨盤底筋訓練)などによる治療を行うそうです。

おむつ使用は慎重に

尿を漏らした方に、安易におむつを使用することは避ける必要があります。
おむつをつける際には、本当におむつが必要なのかをよく検討することが必要だそうです。

トイレに間に合わないのは様々な理由があり、なにが障害となっているのかを検討する必要があります。例えばトイレまで歩けない、トイレが遠い、トイレに座れない、トイレ姿勢が取れない、ズボンが下せない等、なにが障害となっているのか人によって原因は様々です。

ベッドの高さやサイドレールの位置、トイレのドアの開けやすさ、トイレの手すりの位置、ポータブルトイレが体に合っているか等をまず検討して、改善することで、おむつを使用しなくて良い場合もあります。

おむつを使い始めたときも、本人がおむつを外そうとする場合は、何が不快なのか、どうしてほしいのかを本人に聞くことが大切です。

塚田先生によると、安易なおむつ使用がもたらす問題として、ムレや圧迫による不快感、動きにくさなどがあります。股間におむつが挟まり座りにくくなることによって姿勢が悪くなり(いわゆる骨盤座りになり)、誤嚥や誤嚥性肺炎、褥瘡など、健康上の大きな問題につながることもあるそうです。

排泄に関することは、人の尊厳にかかわります。おむつを使う際は慎重に考え、正しく使用することが大切です。

(文:日本トイレ研究所)

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塚田 邦夫氏(高岡駅南クリニック 院長)
群馬大学医学部卒業後、東京医科歯科大学第2外科で一般外科・胃腸科・胸部外科・小児外科の研修。1988年、米国で大腸外科・腸疾患・ストーマケア・創傷治癒の研修。1991年、富山医科薬科大学(現・富山大学)第2外科に移籍。1997年に高岡駅南クリニックを開業。
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