日本トイレ研究所では、11月10日のいいトイレの日に合わせて「日本トイレ大賞」として、トイレ・排泄に関する社会課題への取り組みを表彰しています。
2022年は、「大学生向けこころの健康相談統一ダイヤル広報啓発トイレットペーパー」と「鳥栖商業高校によるJR肥前麓駅トイレ清掃への協力」の2つの取り組みを表彰しました。今回は「大学生向けこころの健康相談統一ダイヤル広報啓発トイレットペーパー」をご紹介します。
20才代の自殺者数、約1.5倍に
厚生労働省の調査結果によると、山梨県では若年層の自殺者が増加傾向にあります。令和3年(2021年)では20歳代の自殺者数が22件と、過去5年と比較した増減率は48.6%を記録しています。
山梨県では、自殺リスクの高まりに対応するため、従来の自殺対策に加えて、相談体制の強化として「こころの健康相談統一ダイヤル」を開設しています。令和2年7月からは24時間365日相談できる体制を整えており、新聞やリーフレット、webを通じて積極的に広報を行っていますが、特に若年層に対して、より効果的にメッセージを届ける方法を考える必要がありました。
厚生労働省「人口動態統計」
悩める大学生に、大学のトイレで寄り添う
そこで、20代が集まる場所として、大学で啓発を行うことができれば効果的であると考え、なかでも、必ず利用し、一定時間滞在する場所として“トイレ”が挙げられました。そこで、悩みを抱える大学生に寄り添うメッセージと、24時間相談を受け付ける窓口「こころの健康相談統一ダイヤル」の電話番号を記載したトイレットペーパーを作成し、県内の大学に設置することにしました。窓口がより身近に感じられるようにすることが、この取り組みの狙いです。
作成したトイレットペーパー
心を落ち着かせる青いインクでメッセージと相談窓口の番号が書かれている
メッセージは現場の相談員だけでなく、実際に相談を受けている学校の先生達も加わって作成しました。
悩みを抱えている学生は様々です。全体として「相談することが死ぬほど嫌」「誰かに悩みを打ち明けるくらいなら死んだほうがいい」「誰かに相談してもいいことがなかった。だから、どうせ相談しても解決にならないし無駄」「自分さえ我慢すればなんとかなる」など、言葉にならないしんどさを抱えていて、頑張りすぎてしまう人や、他人に認められた経験も少なく、自虐的になっているような人も多いと感じていました。
そこで、死にたいくらい悩んでいる学生が「自分と同じように悩んでいる人が他にもいるかもしれない」「自分の気持ちをわかってくれる人が他にもいるかもしれない」と感じられるものにするよう工夫しました。加えて、死にたい気持ちになったことのない学生にも、「もしかしたら、自分の周りの困っている人がいるかもしれない」ということを伝えたいと考えました。
誰も自殺に追い込まれることのない社会を目指して
ペーパーには、実際に10~20代の相談でよく聞かれる言葉をそのまま入れることとしました。まず、前半部分では「じぶんのことが大嫌いだという、あなた」「つらい毎日を、誰かのために平気な顔をして過ごしている、あなた」「じぶんは弱いから、もう終わりにしたいという、あなた」と入れました。
そして後半部分では、死にたいくらい悩んでいる学生に、支援者(相談員)が伝えたいメッセージとして、「ここまでよくひとりでがんばったね」「最初から全部話さなくてもいいんだよ」「うまく話せなくてもいいんだよ」「これからは一緒に考えていこう」というフレーズ入れています。これは、支援者(相談員)どんな気持ちで待っているかを知ってもらうことで、「ちょっとだけ電話してみようかな」と実際の相談につなげてもらうことが目的です。
メッセージは、悩んでいる学生に実際にかけている言葉で、
学生と年の近い相談員が選びました
デザインは、全体的にシンプルで、メッセージが伝わることを重視しています。
まず、トイレットペーパーという限られたスペースでメッセージを伝えなくてはいけないことや、気持ちが落ち込んでいるときは情報処理量が低下することから、少ない文字数で伝えることを重視しました。また、うずくまっている猫のイラストは相談者の心の状態を、雨が止みそうなことを確認している女の子は、相談後の状態を表現しています。どちらも、メッセージを邪魔しないよう線画のイラストにしています。色は気持ちが落ち着く青いインクを採用しました。
トイレという限られた空間で、一人でも多くの人の目に触れ、相談や自殺対策につながってほしいと考えています。
今の気持ちを表してみよう!
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